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(写真:ユニフォトプレス)

 中国を中心に猛威を振るう新型コロナウイルスは企業活動に対しても様々な影響を及ぼしている。その1つが在宅勤務の拡大だ。「多くの人が1カ所に集まること」が感染拡大のリスクを高めるということで、なるべく出社を控えて業務を行う企業が増えている。

 筆者の勤務先の中国にある関連会社もその1社だ。これまでも中国と日本との間で、もしくは国土が広大であるため中国国内の拠点間で、電話やビデオを使った会議は比較的頻繁に行われてきた。とはいえ日常的な業務は普通の日本の会社と変わらず対面が基本だったが、今回の新型コロナウイルスの流行により、一時的とはいえ一気に働き方の変革を強いられている。まずその状況を簡単に紹介しよう。

 この原稿を執筆している2月21日時点で、広東省広州市にある筆者の勤務先の関連会社では、全員がリモートで勤務し、特別の必要があれば前日に申請した上でオフィスに出勤する決まりになっている。中国の会社らしく、業務上のコミュニケーションはもともとSNS(交流サイト)の微信(ウィーチャット)を通して行われることが多く、その点は今も従来と変わらない。ただウィーチャットは確かに多機能ではあるものの、もともとはビジネス用途で設計されているわけではないため、細かい問題も多い。例えば、同時通話は9人までしかできない、プライベートとの共用になるためメッセージが埋もれる、添付ファイルが探しにくいといったものだ。そのため、これだけに頼って業務を進めることは困難だ。

 まず一番大きな問題である大人数の打ち合わせをスムーズに行うために、当社ではウィーチャットと同じ騰訊控股(テンセント)系のサービス「騰訊会議(Tencent Meeting)」を導入した。公開されたばかりでデザインも機能も非常にシンプルだが、在宅勤務ニーズの高まりに合わせて突貫工事で10万台以上のサーバを増強。本来は有料でも100人までだった同時参加数を300人まで拡張し、それを無料で提供している。採用の理由はこれが一時的処置であることを前提として、機能もシンプルで覚えるべき操作も少ない上に、もともと広く普及しているウィーチャットとの連携がスムーズだからだ。

 しかし、実際にリモートワークを進めると多くの問題が噴出した。前述のウィーチャットの不便さに加えて社員から一番よく聞くのが、Wi-Fiの不安定さに対する怒りだ。

 「中国には至る所に無料Wi-Fiがある」といった記述をよく日本のメディアで目にするが、実際は家庭用のネットワークも含め、その通信品質には相当なばらつきがある。というより、ほとんど使い物にならないものも多い。だからビデオや音声といった比較的データ量が多い通信を行おうとすると、途端に途切れてしまうといったことが頻繁に起きる。特に自宅から出ることすらままならない現在の状況では、電波が悪いからと場所を変えるわけにもいかない。地域によっては物流も止まっており、機器を買い替えることすらできない。社内のカジュアルな打ち合わせならともかく、お客様に何かを売り込むときにはとても使えないというわけだ。そして、これはツールを変えて解決するような問題でもない。

 他にも、家の中に電話会議に参加できるような空間がない、同居人に邪魔をされる、通勤時間がないとプライベートとの区別がつけにくく1日中息抜きせずに働いているようで普段以上に疲労感を感じるなど、地味ではあるが切実な声も聞かれた。

 また、通常は通訳と共に会議に出席する一部の日本人社員は、お互いの顔が見えないためにどこで発言していいのか分からず、議論の内容についていけないといったことも起こる。ある程度は時間の経過と共に改善する問題もあるとは思うが、効率が落ちていることは否めない。

 管理者の視点では、従業員の勤務態度が把握しづらくなるという問題はよく指摘される通りだ。既存のタスク処理はできても新たに仕事をつくるのは難しいと感じる。他に選択肢がない以上仕方がないが、オフィスで働けることはありがたい、というのが偽らざる実感だ。