ウクライナ危機を歴史と地理から見る
ここまで、「ミンスク合意」「NATOの東方拡大」など、ふだん接することのない用語が登場した。ちなみにミンスク合意は、2014年に起きた「ウクライナ紛争」を停戦するための合意だ。では、ウクライナ紛争とは何か。
さまざまな用語とこれまで経緯を理解するには「ロシア軍は動くのか ウクライナ危機について知っておきたい10のこと」が役に立つ。ロシアとウクライナの関係を歴史と地理を軸にひもとく。
ロシアとウクライナは兄弟国といえる。どちらも「10~12世紀に欧州の大国であったキエフ・ルーシ公国を起源とする。同公国はビザンチン帝国と肩を並べる時期もあった。その後のロシア、ウクライナ、ベラルーシの基礎を形作った。ロシアは自国を1000年の歴史と栄光を持つ同公国の正統な継承者と主張するが、同公国の中心都市キエフがあるウクライナを本家とする見方もある」
冷戦終結後「ソ連(当時)から独立したウクライナの政権は親欧米と親ロシアの間で揺れてきた。2005年に就任したビクトル・ユシチェンコ大統領はNATOへの加盟に積極的だったが、2010年にこの後を襲ったヤヌコビッチ大統領はEU(欧州連合)との連合協定の交渉プロセスを停止した。同大統領がマイダン革命で倒れると、2014年5月にペトロ・ポロシェンコ氏が大統領に就任し、NATOへの加盟に方針を再転換した」。
対ロシア制裁は効果があるのか
ウクライナ東部で親ロ派勢力が支配する地域の独立をロシアが承認し、さらに同地域へ軍派遣を指示したのを踏まえて、西側諸国は「第1弾」の制裁を開始した。2月24日にプーチン大統領が軍事作戦に踏み切ったのを受けて、さらなる制裁強化が見込まれる。
だが、制裁の効果を疑問視する声が以前からある。「もともとロシアはソ連時代のルーブル経済圏で国家を運営した経験の蓄積もあり、西側諸国からの制裁下でもそれほど大きな支障なく経済的自立ができる状況にある。2014年以降続くEUからの食料品の輸入禁止により、首都モスクワでも西側諸国の製品が手に入らなくなった。ただ、ロシア人はソ連時代のモノがなかったころから、国内にあるもので代替品を作る能力にたけている。イタリアの某ブランド品にそっくりなロシア産パスタや、スイス産と見まがうチーズなど、パッケージはほぼ同じで中身がロシア産の製品が至る所にあり、経済制裁の影響をものともしないロシア国民のたくましさが見受けられる」
制裁は、その効果がおぼつかない一方で、科す方の西側も無傷ではいられない。「もし米国がウクライナ情勢においてロシアへの制裁に踏み切れば、ロシアは再び米国の主要インフラへのサイバー攻撃を開始すると考えられる」(国際政治学者で米ユーラシア・グループ社長のイアン・ブレマー氏)。
ドイツとロシアの動向は、日中関係の合わせ鏡
制裁をめぐり、中でも苦しい選択を強いられているのはドイツだ。
西側諸国がロシアへの制裁を強めれば、ロシアが天然ガスの欧州向け供給を絞り報復するのは避けられない。EUのガスの輸入元を見ると2021年上半期はロシアが46.8%を占めた。なかでもドイツはロシア産天然ガスへの依存度が高く、報復の影響は大きい。それでもドイツは、同国とロシアをつなぐガスパイプライン「ノルドストリーム2」の承認停止を決めた。
仮に台湾有事の場合、西側諸国は中国への制裁を検討するだろう。そのとき、中国と経済面で密接な関係にある日本はどこまで歩調を合わせられるだろうか。
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