夜のにぎわいと、感染抑制は両立できるか(写真:つのだよしお/アフロ)

 新型コロナウイルス対策の効果は、既に世界の多くの研究者が分析している。筆者もその一人として、エージェントベース・モデル(agent-based model)と呼ばれるタイプのモデルを用いて、昨年夏から分析している。本稿では、数理的モデルとの比較から導かれるエージェントベース・モデルの一般的な特徴を述べたうえで、感染症分野における応用例として、筆者によるこれまでの分析の概要と結果、及びその政策的含意を示したい。

 エージェントベース・モデルとは、個体(エージェント)を単位としてその挙動を再現することにより、多数の個体が構成するシステム全体の挙動を分析するモデルを指す。ここで言う個体とは、文字通り1人の人や1つの組織を指す。数理的モデルの場合は、あるカテゴリーに属する個別の主体をまとめて1つの単位とみなす。

 経済学分野で言えば、例えば家計は実際には多数存在するが、標準的なマクロ経済学モデルなどの数理的モデルでは、家計という1つの主体として扱われる。一方で、エージェントベース・モデルではいくつもの家計が存在することを想定する。感染症分析の分野で言えば、西浦博教授らが国内での流行当初に示したSIRモデルなどは数理的モデルで、未感染者、感染者、回復者をそれぞれ1つの単位とみなし、各単位の規模がどのように変化していくのかを分析する。

全体を見るSIR、個別行動を見るエージェントベース

 一方でエージェントベース・モデルでは、社会に生きる多くの個人1人ひとりを単位とし、ある人が感染したら誰に感染が広がるのか、その様子を再現する。SIRモデルが初めから社会全体にフォーカスを置いているのとは対照的に、エージェントベース・モデルは個体の行動と相互作用にフォーカスを置いてモデル化し、その結果として社会全体のふるまいを生み出すという点で、ボトム・アップ・アプローチと言える(注1)。

注1 エージェントベース・モデルそのものは、コロナ禍以前から様々な分野で用いられてきた。例えば、経済学分野では、家計、銀行、政府、などの各経済主体の行動ルールを設定することにより、金融規制が社会全体に及ぼす影響を分析できる。また金融市場に関する分析では、各投資家の行動ルールを設定することにより、市場制度が資産価格形成のメカニズムに及ぼす影響を分析する、といった研究がある。

 エージェントベース・モデルの長所としては、①異質性を多次元で導入できること、②詳細なデータをそのまま反映できること、③個体間相互作用を明示的にモデル化できること、の大きく3点が挙げられる。①で述べた異質性とは、同一のカテゴリーに属する主体間での特徴の違いを指す経済学用語で、例えば個人の特徴である年齢、居住地、職業などは個人の異質性の「軸」と呼べる。

続きを読む 2/4 人から人への伝染の再現が可能に

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