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 これまで多くの人から「香港の抗議活動は今後どうなるのか」という質問を受けてきた。この質問に答えることは抗議活動が始まって以来常に容易なものではなかったが、一連の抗議活動は新型コロナウイルスによる肺炎流行によって全く予想外の方向に向かいつつある。

肺炎流行の香港への影響は?

 香港では中国本土よりもかなり早い段階で、中国湖北省武漢市で肺炎を引き起こすウイルスの感染が広がっていることが報道されている。また、香港大学の研究チームが発表する湖北省の感染者数は公式発表のおよそ20倍でありながら信頼ある数字として報道されるなど、香港での研究・報道は中国本土の報道・公式発表よりも信頼できるものとして扱われている。重症急性呼吸器症候群(SARS)を2003年に経験していることもあり、香港内での新型コロナウイルスによる肺炎流行への警戒感も早いうちからあったと言えるだろう。

1月7日に撮影した香港中文大学内の落書きでは、すでにマスクをつけることを呼びかけている。中国本土よりもはるかに早い時期に警戒感が高まっていたことが分かる

 香港政府は1月4日に新型感染症に対する警戒レベルを「深刻」に引き上げた。1月25日には「緊急」という最高レベルに引き上げ、幼稚園・小学校・中学校(日本の中学校・高校に当たる)を2月16日まで休校とすることを発表した。さらに武漢からの航空機・高速鉄道の無期限運休が発表された。また、香港に入る全ての人に対し健康状態についての申告表回答を義務付けた。

 1月27日には湖北省住民と過去14日以内に湖北省を訪問した人の入境を禁止するというさらに踏み込んだ措置を取っている。なおこの入境禁止の対象に香港居民(住民であれば永住権所持者に限らない)は含まれず、湖北省への訪問歴は自己申告によって判断される。

旧正月に中国本土に行くつもりだった乗客が高速鉄道の切符を払い戻そうとしている長蛇の列

 1月28日には香港と中国本土の間の高速鉄道、フェリー、香港と広州の間の直通列車を全て運休することを決定し、往来数が少ない一部の香港と中国本土の間の出入境施設を閉鎖することも発表した。さらに中国本土側の当局は、大陸人の香港渡航(「自由行」と呼ばれる個人旅行)に必要な許可を今後出さないこと、中国本土にいる香港人は香港に帰り14日間は家の中にいることを推奨するとした。高速鉄道駅を除く主要な出入境施設は閉鎖されないが、これらによって香港と中国本土の間の行き来は抑制されることになる。なお政府職員は一部業務を除き2月2日まで在宅勤務となることが発表された。

SMSで届いた香港中文大学の授業停止のお知らせ

 これも十分ではないという声が相次ぎ、1月31日には政府職員の在宅勤務期間の延長が発表された。併せて幼稚園・小中学校は3月2日まで再開してはならないとされ、発熱者の香港からの出境が禁止された。また、過去14日間に湖北省を訪問したと申告した香港居民は発熱の有無に関係なく強制的に隔離されるようになった。

 筆者が通う香港中文大学も旧正月(農暦新年)の休暇を延長するという形で2月中旬までの授業停止を決定し、その後今学期はしばらくオンラインで授業を行うことを決定した。香港中文大学は大学内での警察と抗議者の激しい抗争を受けて前学期も学校を閉鎖しているが、今度は全く違う理由で授業をやめることになった。香港の他の大学も同様の対応をしている。

マクドナルドの無人注文機に表示された手洗いの呼びかけ

 ここまで踏み込んだ措置が取られているのは香港での感染者が大幅に増加しているからではない。現時点では累計の感染者・死亡者はそれほど多いとは言えず(実は2018年12月30日から2019年4月6日の香港のインフルエンザ死亡者数は357人だ)、むしろかつてのSARS流行を教訓にした感染予防を目的にした措置だったと言える。

 市民の間で感染症への警戒感は広がっている。マスクは多くの薬局で売り切れ、2月4日には香港政府が公務員は原則としてマスクを付けてはならないとした。様々な店舗やレストランが手洗いを呼びかけ、香港ディズニーランドは閉鎖された。筆者が1月26日にフィールドワークを行った教会は、礼拝前に教会に入ろうとする全員の体温を測定し、なおかつ全員にアルコール消毒を求めるほどの徹底ぶりだった。ほとんどのホテルはチェックインのときに自らの健康状況の申告を求めている。しかし、中国の主要都市に比べれば街へ出ている人は多く、営業しているお店もまた多い。