2022年元旦。氷点下の東京・お台場には、朝から多数の人々が押しかけた。お目当ては、ガンダムのプラスチックモデル、通称「ガンプラ」だ。ピリピリとした雰囲気の中で、THE GUNDAM BASE TOKYO (ガンダムベース東京)の入場整理券配布までの時間を過ごすこととなった。このガンダムのプラモデルといえば、模型店や量販店に山のように在庫があり、限定品を除けば欲しい時に欲しいだけ手に入るという印象がかつてはあった。しかし最近はその状況が激変している。

 どこに行っても、ガンプラ(ガンダムやシャア専用ザクなどは除く)が手に入らない。千葉県にある創業50年を超える老舗模型店を取材したところ、「とにかくガンプラは在庫が入った瞬間に売り切れる」「問屋に発注しても全く届かない」といった嘆きの声が聞こえてきた。入手困難な状況を受けて、直営店とも呼べるガンダムベース東京ならサプライズの再販があるはずだと考え、多くのガンプラファンが新年からお台場に行列をつくったのだ。

 なぜ、ガンプラ好きな人々(以下モデラー)が苦汁をなめさせられることになったのか、そのニッチな事情を解説したいと思う。

 ※以下非常にマニアックな内容であるため、ガンダムシリーズの背景にある「宇宙世紀」などの知識がある程度必要です。難しいと感じる方は、初代のアニメ『機動戦士ガンダム』からの視聴をお勧めします。

ガンプラ需要はなぜ急拡大した

 新型コロナウイルス禍を受けて、自宅で過ごす時間に楽しむ趣味の市場が拡大。ゲームやDIY(日曜大工)、料理といった新たな趣味を見つける人も多くなった。そんな中、ガンダムのプラモデルは机ひとつあれば始めることが可能な趣味として、急成長したのだ。子供時代に楽しんでいた大人世代の回帰や新たな層の流入も起きた。そうした状況を好機と捉えたBANDAI SPIRITS(バンダイスピリッツ、東京・港)も生産体制を強化し、増産に踏み切ったものの、それ以上にニーズが拡大している。

 ガンプラの好調ぶりは決算からも鮮明だ。2021年3月期、バンダイナムコホールディングスでガンプラが主力の「機動戦士ガンダム」関連の売上高は前年同期と比べて22%増の950億円だった。22年3月期も前年同期から16%増の1060億円を見込んでいる。同社がハイターゲット層と呼ぶ大人世代に支持され、国内に加えて、海外でもガンプラの人気が高まっている。

 まずは品切れの動きだが、20年の春先には、一部で発生し始めていた。ただ、現在のような棚に1個もない状態と比較すればポツポツと人気モデルが売り切れる程度であった。あくまで都内量販店を巡回していた筆者の視点にはなるが、ガンプラ以上にサーフェイサー(下地塗料)やスミ入れ塗料、ニッパーなどの工具が入手困難になっていた。とりわけ3原色カラーと白色の塗料は入手困難で一部オークションサイトで高額転売されていた(ガンダムの基本色がトリコロールカラーということもあるだろうが、調色にも重宝されているからだ)。

 流通が極端に悪化し始めたのは、20年の秋頃。通常、ガンプラは新商品の発売日から3日間ぐらいは大型量販店であれば在庫が尽きることはなかった印象がある。しかし、「バウンド・ドック」の販売前後から状況が変化する。本機体、Zガンダムのジェリド・メサという前半パートのライバルキャラクターの乗る最終機体で、プラモデル化にはあまり恵まれていない機体だった(SD[スーパー・ディフォルメ]版やソフトビニール製モデルを経ての登場。おじさん世代の求めていた質の高い可変も実現した最高の一品であった)。本機の発売日には、夕方前後には全て売り切れになってしまった。

 バンダイ側は再⽣産をコンスタントに⾏ったとされている。にもかかわらず、入荷後1時間も経たずに店頭から消える。では、消えたキットはどこにいったのか? 多くはモデラーではなく転売ヤーの手元にわたったようだ。旧来レアキットと呼ばれる再生産されにくい製品やレアな商品だけがオークションやフリマアプリで高騰することはあった。しかし最近は、新製品の発売タイミングで一気に刈り取られ、転売されるようになったのだ。定価5500円(税込み)のモデルは、発売直後からフリマアプリで売りに出されていた。その結果、8000円台、高ければ1万円で取引されることとなった。しかもこの頃は、ガンプラの購入制限も存在しなかった(店舗側は、バウンド・ドックを2体組み合わせるタイプの機体「アモン・ドッグ」を再現したいユーザーや自作するスクラッチ用、 ゲーツ・キャパ大尉の機体用にと複数買いのニーズも想定したのかもしれない)。

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