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香港のデモは越年し、8カ月目に突入した。長期化するデモについて香港に暮らす様々な日本人はどのように感じ、どう影響を受けたのか。香港に在住し、香港中文大学の博士課程に在籍する石井大智氏がリポートする。

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日系企業駐在員の苦悩

 私は慶応義塾大学の卒業生であり、慶応の同窓会である香港三田会にも度々出席している。香港三田会は毎年クリスマス会を開催しているが、昨年末のそれは例年とは少し違うものだった。

香港の抗議活動は8カ月目に突入した

 まず場所である。今回はセントラルなどの香港中心部ではなく、そこから離れた香港島の南部にある「香港仔(アバディーン)」での開催だった。香港三田会は今年すでにいくつかのイベントを中止していた。クリスマス会こそは何としても実行しようと、デモが発生する可能性の低い場所を会場に選んだという。

 もう1つ例年と違う点があった。三田会のイベントには必ずと言っていいほど行われる、「エール」の内容だ。応援団経験者の卒業生が音頭を取って行うことが多い。例えば稲門会(早稲田大学の同窓会)と合同で同窓会を行う場合は「フレフレ早稲田」のように早稲田大学へのエールを送ることになる。今回は香港へのエールを送ることになった。しかし「フレフレ香港」というのは抗議者の合言葉である「香港加油」を想起させるなど中立性を欠くと考えたのか、「落ち着け香港」というエールを香港に送ることになった。

 ここで伝えたいのは、日系企業の日本人駐在員は職場を含む様々な場面で、政治的に見られることを極力避けるため、きめ細かな対応を取ることに迫られてきたということだ。「政治的な話を職場でしてはいけない」と現地スタッフにはっきり伝える日系企業もあれば、あえて何も言わないことを選択している日系企業もある。「政治的な話を職場でしてはいけない」ということ自体が、現地スタッフにとっては抗議活動について語ることを禁止しているように聞こえて、政治的な発言となってしまうこともあるからである。

 香港にある日系企業の多くが加盟する香港日本人商工会議所が2019年11月18日から22日の間に取ったアンケートによると回答した270社の9割に当たる243社が自社の駐在員を日本に帰国させる予定はないと答えている(ただし家族を帰国させる予定がないと答えた企業は6割ほどにとどまり、家族を帰そうと考えている企業は一定数あることが分かる)。このようにデモによって安全やビジネスに直接影響が出て駐在員を帰らせるというほどの事態とは受け止められていない。しかしながら、香港で進む社会的分裂にどう向き合うのかという別の課題に日系企業は直面している。