第3に、財源。今回の議論で、子育て支援の予算増のめどはついていない。将来の高齢者扶養の担い手である子どもの育成のために、年金や高齢者医療費を抑制して充てるという発想は全く見られない。十分な子育て対策には、赤字国債に依存した一般会計ではなく、子育てに使途を限定した目的税と同じ機能の社会保険方式が必要となる。

 もっとも、新しい社会保険をつくる必要はなく、20年前に設立された介護保険に間借りする方式がある。幸い、介護保険の被保険者は40歳以上に限定されている。これは20歳から39歳層には介護保険料の負担を求められないという趣旨であるが、この年齢層が子育てのための保険料を担うことで、子育てと高齢者介護という家族のリスクに対応する社会保険へと拡大することができる。介護保険は、高齢者介護を家族だけに依存するのではなく、社会全体で幅広く負担するための仕組みであるが、これは女性が本格的に働く時代の保育についても同様である。

子ども保険で児童福祉の改革を

 こうした「子ども保険」の意義は、子育てのための固有の財源を確保することだけではない。保育サービス利用の選択肢拡大につながる。

 これまでの政府の子ども政策の柱は、待機児童の解消であった。2020年の目標達成時期は先送りされたが、他方で、都市部でも一部の保育所には定員割れが生じている。しかし、待機児童さえ解消されれば、利用者が自由に保育所を選べない現状のままで良いとするのは誤りだ。

 現行制度では、認可保育所に子どもを受け入れてもらうためには、その家族の状況について市町村の審査や認定を受ける、いわば生活保護と同様な仕組みである。これが子ども保険では、医療や介護保険と同様に、利用者と保育所が対等な契約関係になる。

 そのためには、需要の飛躍的な増加に見合った、十分な保育サービスの供給が確保されなければならない。これは現行の国や自治体の保育所への選別的な補助金ではなく、介護のように社会保険からの普遍的な「保育報酬」が財源となる。その結果、企業を含む多様な事業者が対等な競争条件で参入し、利用者の選択肢が拡大する。利用者に選ばれなければ、いかなる保育所でも存続できない状況が、子どもの健全な育成のためにも必要だ。

もはや「限られた層への福祉」ではない

 これに近い方式が、内閣府の企業主導型保育所である。これは福祉制度ではないため、その設置に市町村が関与せず、企業からの拠出金を財源とする点で、子ども保険と一部共通する点もある。もともと、企業の従業員のための事業所内保育所を発展させたもので、共働き家族の子育てを支援する保育サービスという視点から、パートタイム就業にも対応できる弾力的な仕組みとなっている。また、地域住民の子どもも受け入れることで、認可保育所並みの補助を得られる制度である。

 もっとも、認可保育所と比べて、職員の配置や面積等の設置基準では差がないにもかかわらず、内閣府の委託を受けた児童育成協会と市町村との二重の監査を受けるなど、事業者の負担は大きい。また、本年度の補正予算に盛り込まれた保育士の賃金引き上げへの助成対象も、認可保育所に限定されるなどの「官民格差」が生じている。

 今後の保育所は、待機児童の解消という目先の目標を超えて、限られた層への福祉から、誰にでも開かれた公共性の高いサービスを応分の負担で提供する場へと転換する必要がある。そのためには、家族の就労の有無を問わずに利用できる介護保険のように、子ども保険という固有の財源が必要となる。岸田政権のこども家庭庁も、こうした適正な負担増を含めた制度改革に挑戦すべきではないだろうか。

この記事はシリーズ「Views」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。