政府は昨年12月、子ども政策の司令塔となる新組織「こども家庭庁」に関する基本方針を閣議決定した。名称は当初案の「こども庁」から「こども家庭庁」に変わり、「2023年度のできる限り早い時期」に創設するとしている。新省庁発足で、日本の大きな課題である少子化は解決するのか。政府の経済財政諮問会議委員、規制改革推進会議委員などを歴任した八代尚宏・昭和女子大学副学長・現代ビジネス研究所長が3つのポイントを指摘する。

日本の不透明な将来のなかで、もっとも確実なことは、急速に進む少子化である。
女性が一生に産む平均的な子どもの数(合計特殊出生率)は、2020年で1.34人にすぎない。これは人口が安定する2.1人を大幅に下回っており、すでに人口減少期に突入している。特に20歳から64歳の働き手人口は、2000年のピーク時からの20年間で、約1000万人の大幅な減少となっている。ドルベースでの日本のGDP(国内総生産)が、1997年以来、全く増えていない長期の経済停滞下でも、失業率が2%台にとどまっているのは、もっぱらこの労働供給の減少によるものである。
こうした少子化の状況が放置されている要因のひとつは、政府の社会保障政策の重点が年金や高齢者医療など、「票になる高齢者」に集中しているためである。18歳以下への10万円給付などの付け焼き刃ではなく、本気で子どものための政策を行うべきである。
岸田文雄政権は、少子化に歯止めをかけるための新しい行政組織として、「こども家庭庁」の創設を決めた。しかし、本来は、どのような子ども政策を行うかが肝要であり、単なる組織づくりでは大きな意味はない。以下で、こども家庭庁でなされるべき、3つのポイントを掲げてみよう。
何のための「こども庁」か
第1に、縦割り行政の解消である。子育て政策に関しては、内閣府、厚生労働省、文部科学省の3つの府省庁が関与しており、そうした縦割り行政の一元化を図ることが、菅義偉政権時代の「こども庁」の発想であった。それが文教族の圧力で幼稚園が早々に脱落し、自民党の「家庭が大事」の一声で「こども家庭庁」という長い名称となった。
まさに圧力団体の声を「聞く力」の本領発揮といえる。専業主婦世帯数が急速に減少する下で、幼稚園は預かり保育なしには維持困難である。他方、保育所でも幼児教育の重要性が高まっている。幼稚園と保育所との役割の差は小さくなっている現在、なぜ、幼保一元化へ逆行するような組織になるのだろうか。
第2に、「保育サービス」の視点だ。「家庭が大事」なのは当然だが、それが過去の「日本型福祉社会」のように、家族の保育責任を強調する趣旨であれば、本末転倒だ。現行の認可保育所は、保育を担うのは家庭の基本的な役割で、それが欠ける一部の低所得層等の子どものための児童福祉制度にもとづいている。
しかし、女性が本格的に働く社会では、働く両親を支援するための「保育サービス」への転換が必要となる。また、少子化を防ぐための子育てへの支援という視点では、子育て家族の半分を占める、母親が働いていない家族にも一定の保育支援が不可欠だ。現在でも自治体による一時保育があるが、ごく例外的な仕組みにとどまっている。
Powered by リゾーム?