探査の成功は人類の宇宙進出にとって最終的な結果ではなく、一里塚にすぎない。

 「バンザイ、えらいぞ、すごいぞ」で終わるのではなく、「次へ、そして次へ、さらなる次へ」と休むことなく新たな探査計画を立ち上げ、続けていく必要がある。宇宙に対する新たなる知識・知見の獲得に努め、人類の知的資産を富ませ、より広い視野からこの宇宙全体を見渡せるようになっていく必要がある。このような一見ゼニカネの見返りが乏しいように見える知的営為を、数世紀にもわたって着実に積み上げていくことが最終的には途方もない経済的利益を生み出す。歴史に見る通りである。

 それは、必ずしも同工の「はやぶさ3」を続けるということを意味しない。必要なのは「初代はやぶさ、そしてはやぶさ2」という計画的に未知の領域に挑む探査の枠組みと精神を「次なる未知への探査」、「さらに次の、より遠くにある未知への探査」という形で継ぐことだ。

 はやぶさ2では若い技術者・研究者たちが活躍した。その完璧な成功で、日本の宇宙科学はさらなる探査を進める力を蓄積していることを実績で示した。

 まず、初代はやぶさと、はやぶさ2が日本の宇宙科学に、そして宇宙開発にもたらした成果を総括しよう。それは「定石外しによる新たな定石の創造」であった。

太陽系探査の定石「接近観測・周回・着陸・サンプルリターン」

 世界的・歴史的に見ていこう。今、世界の宇宙開発は、太陽系探査の初期段階にある。初期段階、というのはまだ太陽系全体の見取り図を描くには至っていないからだ。

 1950年代末の月探査の試みから始まり、1970年代までは米国と旧ソ連という2つの国の独壇場だった。1980年代にはハレーすい星探査を契機に欧州と日本が探査を開始し、21世紀に入ると中国、インド、さらにアラブ首長国連邦や、民間企業による探査も始まった。

 現状では、米国が外惑星から太陽系外まで探査機を飛ばしてトップを走っている。旧ソ連崩壊後、探査はロシアが引き継いだが、相次ぐ失敗と資金不足で停滞している。

 日本と欧州は火星から金星までの内惑星領域の探査に手を染め、共同で水星探査機「ベピ・コロンボ」(2018年打ち上げ)を打ち上げ・運用するに至った。

 中国は着実な計画と投資で一気に差を詰めてきており、特に無人月探査では「嫦娥5号」により月の土壌サンプルの採取・回収に成功して世界最先端を走るまでになっている。

 囲碁や将棋に定石があるのと同様に、宇宙探査にも定石がある。

 「接近観測・周回・着陸・サンプルリターン」というものだ。

 まず、目的の星の近くを通過して観測する探査機を送り込む。次に星を周回して長期間観測を行う探査機、そして着陸して表面の詳細を観測する探査機を送る。それだけ実績を積み重ねた上で土壌サンプルを採取して地球に持ち帰る。これらは技術的に簡単な順に並んでいて、1つ進むごとに技術的課題が増えていく。