全6758文字

 今回は盛田昭夫氏とともにソニーを設立した井深大氏のインタビューをお送りします。
 技術革新の大切さ、規模の大きさを追いすぎることのマイナス、持論であった幼児教育の大切さ、さらに歯に衣着せぬ政治への批判など、昭和を代表する経営者の言葉をぜひお読みください。
掲載:1979年1月19日号(記事の内容は掲載当時のままです)

井深大氏
明治41年4月栃木県生まれ、67歳。昭和8年早大理工学部卒、PCL(映画フィルムの現像録音会社)に入社。後に日本測定器の技術担当役員に迎えられ、海軍技術将校だった盛田昭夫氏と識り合う。昭和20年10月、東京通信研究所を創設、井深氏38歳、盛田氏24歳。21年5月東京通信工業を設立、専務に就任、25年同社社長。33年社名をソニーに変更。46年6月会長、51年1月名誉会長。経済同友会幹事、発明協会会長、スウェーデン王立理工学アカデミー外国委員、幼児開発協会理事長。時計、カメラなど新製品を次々に買い込む癖がある。(写真:Fujifotos/アフロ)

 新技術の開発テンポが鈍り、成長の新たな制約要因になるという悲観論が台頭している。しかし、ソニーの井深大名誉会長は「今後の質的成長への転換期こそ、技術革新は必需品になる」とし、「いまこそ、企業は平均的発想法から脱却するときだ」と説く。独自の技術を商品化した高度成長時代のチャンピオンが明かす次の時代に生き残る企業の条件はこうだ。(聞き手は本誌編集長、吉村久夫)

 今回は名誉会長に就任され、引き続き技術全般をみていかれるそうですね。

 この5月に創立30周年を迎えるのを機会に、もうちょっと新しい飛躍がどうやったらできるかってことを、やや第三者的な立場から考えてみたい。それには代表権を外してもらって、好き勝手にやらせて欲しいということなんです。相談役というにはまだ、しゃばっ気が多いんで、こんな形になりました。

質的な変革がなければ成長できない

 これからの経済社会を展望する場合、資源、環境の制約のほかに、技術革新の停滞を重要視する見方があります。米国マグロウヒル社の未来技術予測でも、予想されたより、技術がものになる時期がずれ込んでいるという結果が出ていますが(本誌75年11月10日号)、この点、どうごらんになっていますか。

 停滞しているというのは、技術革新されたものがどう産業化されていくかということなのでしょうか。だとすれば、これは単にどう需要を満たしていくかということに過ぎないわけです。たとえば核融合にしたって、まだ石油が底をついているわけでもなんでもなく、さし当たり困らないだけですよ。するとやはりお金がかかるわけですから公共団体であれ民間であれ、まあ少し、技術開発のテンポをあとへずらそうという形になっていくということなんです。

 しかし、これまで特に、日本の場合は量的な成長ばかり追求してきましたが、これからは質的な変革を伴わなければ成長は望めないということになってますから、しだいに技術革新が必要欠くべからざる条件になってくることは間違いないでしょう。

 たしかに、量的拡大というものに対する技術革新は足踏みしていると思うんですが、イノベーションというのにはいろんな意味がありましてね。古いマーケットに古い品物を供給するイノベーションもありうるわけです。それから、新しい商品を古いマーケットに出すイノベーションもあり、古い商品を新しいマーケットに出すイノベーション、さらに新しい商品を新しいマーケットに出すイノベーションもありうるわけです。それらを皆、いっしょくたにしてますね。特に経済学者はそこらへんのケジメが全然わかっていないんですよ。それでただ、ばくぜんとイノベーションが起きていないから、成長、景気回復に役立たなくなったというような見方が生まれてくるわけです。