問 今回の作品にもクライトンさんらしい発見がありましたね。従来、騎士は甲冑を着込んでいるので動きが鈍重だったと思われていましたが、作中ではとても素早く、パワフルに動きます。これは調査した事実に基づいているんですか。
答 その通りです。でも、調査自体はとても大変でした。私が求めている情報が、歴史的な資料にはなかなか見つからないからです。そこで、できる限り実際の体験記や、当時の文献に当たりました。その中のいくつかの文献に、騎士が城の女たちに様々な技を披露する場面が描写されていたんです。鎧兜をつけたまま、転がったり、梯子をのぼってみせたり。そうした描写を読んで、鎧兜で身動きが取れない騎士のイメージが誤りだったと分かったんです。
もう1つ、とても意外だったのは、騎士たちがいかに強かったのかということです。現在、博物館で見られる鎧兜は小さなものです。しかし、それらは実は王子や伯爵がパレードで身につけた儀礼的な衣装なんです。その証拠に、戦争の時代だった14世紀の鎧兜はほとんど残っていません。すべて戦闘の中で破壊されてしまったんですね。
問 そう言えば、『ジュラシック・パーク』でも、恐竜は鈍重な生き物だという従来のイメージを覆されましたよね。
答 それは私の手柄ではないんですよ。私が大学にいた頃に教えられた、20世紀初頭からの学説では、恐竜は冷血動物で、鈍重かつ知能が低いとされていました。ブロントサウルスのような大型の恐竜は、体を部分的に水の中に沈めていなければ自分の体重を支えることさえできないと言われていたんです。
それが1970年代に入って変わり始めました。恐竜は温血動物で、機敏であるという主張が学会で出てきたんです。やがて、私が『ジュラシック・パーク』を書いた91年には、恐竜は機敏だったという考えがおおむね受け入れられていました。
小説に登場する城や町が大人気に
問 『タイムライン』に話を戻しますと、作品の中で、悪役のボブ・ドニガーの言った言葉がとても印象に残っています。
「未来は過去にある」「過去の遺産は今いちばん重要な観光資源である」。実は先日、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の松浦晃一郎・事務局長に会ったとき、彼も「歴史的な文化遺産が観光スポットとして非常に人気が高くなっている」と言っていたんですよ。過去や歴史に対する関心が世界中の人々の間に高まっているのかもしれませんね。
答 私もそう思います。歴史的な文化遺産を巡る観光は、今、世界中で最も急速に成長している観光の分野です。全世界で同時に流行し始めたかのように、あちこちで人気が沸騰しています。
『タイムライン』では、フランスに実在する2つの中世の城について書きました。数年前、調査のためにそれらの城を最初に訪れたときは、全く知られていなかったんですが、初稿を書き終えて再び訪れたときは、観光客であふれ返っていて、とても驚いた記憶があります。
小説の中にサルラというフランスの古い町が登場します。衰退してしまったその町の中心街には、中世の町並みがそのまま残っていました。50年代に取り壊されそうになったんですが、当時、フランスの文化相だったアンドレ・マルローが政府に働きかけて、復興のための予算を出させたんです。サルラは今やフランスで最も成功した観光スポットになっています。人々にとって、歴史的な雰囲気はそれだけ魅力があるということですね。
問 過去への関心が高まっているのは、テクノロジーの進歩とも関係があるんじゃないでしょうか。フランスの城であれ、ヨルダンのペトラ遺跡であれ、私たちはインターネットを使って、自宅にいながらにして画像を見ることができますよね。それが本物を見たいという欲求をかき立てているとは思いませんか。
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