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 2000年、日経ビジネスは米国人作家のマイクル・クライトン氏にインタビューをしています。

 クライトン氏はもともと医者を志し、その後、小説や映画の世界で活躍します。日本では、手塚治虫氏も医学を勉強していたことで知られますが、2人とも科学的視点に基づいて、未来を暗示する作品を手がけている点が注目されます。

 残念ながら、すでにこの世を去ってしまいましたが、生きていたらさらにどんな未来を描いていたでしょう。

 示唆に富むクライトン氏の言葉を、ぜひ、お読みになってください。

掲載:2000年11月13日号(記事の内容はすべて掲載当時のものです)

マイクル・クライトン(Michael Crichton)氏
1942年10月23日、米シカゴ生まれ。本名:ジョン(John)・マイクル・クライトン。ハーバード大学で人類学を専攻し、64年に卒業。同大学医学部に入学し、69年に卒業後、カリフォルニアのソーク生物学研究所の特別研究員となる。医学部在学中からミステリーを書き始め、69年、医学博士号を取得するのと同時に『アンドロメダ病原体』を発表、ベストセラーになる。『ジュラシック・パーク』『ディスクロージャー』など代表作多数。(写真:ユニフォトプレス)

最先端技術の量子テレポーテーションを扱った最新作を発表。
テクノロジーの進歩とともに、人は過去に関心を持ち始めている。
なぜなら、人々は正真正銘の本物を求めており
過去は紛れもない本物だからだという。

(聞き手は本誌編集長、小林 収)

最新作は戦争で危険な中世が舞台

 クライトンさんの最新作『タイムライン』はいわゆる時間旅行(タイムトラベル)物ですが、「量子テレポーテーション」という最新のテクノロジーを使って、現代の若者たちが14世紀のフランスに行くという設定がとても斬新でした。ただ、疑問も感じたんです。もっとエキサイティングな時代と場所があるはずなのに、なぜ14世紀のフランス、つまり中世の西欧を選んだんでしょう。

 まず、危険な時代を選びたいと思ったんです。つまり、戦争の時代です。それから変化が激しい時代を選びたいとも思いました。14世紀の西欧では戦争の戦術が大きく変化しました。それまでの数百年間は、騎士つまり槍騎兵連隊の兵士たちが最も強力でした。従って、騎士道がとても重視されていたんです。

 ところが14世紀になって、それが突如として終わりました。イングランド人がウェールズ人とともに弓術を完成させ、弓矢によって馬上の騎士を打ち破ることができるようになったんです。その結果、騎士の社会的地位や貴族とのつながりが消滅し、騎士道が廃れました。一方で商人が台頭し、貿易が富を生むという考えが西欧に普及していったんです。民族国家という概念もこのころからです。