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 かつて、日本の危機管理体制の整備の必要性を強く訴えた一人の元警察官僚がいました。

 その人の名は佐々淳行氏。東大安田講堂事件や、連合赤軍によるあさま山荘事件の現場指揮に当たったことでも知られ、内閣安全保障室の初代室長も務めました。

 危機管理のプロである佐々氏は、19年前のこのインタビューの中で、進化する情報化社会を見据えてサイバーテロへの対策強化が必要と語り、一方で阪神・淡路大震災の経験も踏まえて、大規模災害への備えを提唱しました。さらには原子力事故への対応にも言及しています。

 その先見性は注目に値しますが、同時に、現在の日本の政治・行政の中枢に、佐々氏のような気概と実務能力を併せ持つ危機管理のプロはいるのか、と思わず考えさせられます。

掲載:2000年6月19日号(記事中の内容は掲載当時のものです)

佐々 淳行(さっさ・あつゆき)氏
1930年12月11日東京都生まれ、69歳。54年東京大学法学部卒業、同年4月警察庁入庁
65年在香港日本総領事館領事、75年三重県警察本部長、77年防衛庁に出向
官房長、防衛施設庁長官などを歴任。86年内閣安全保障室の初代室長を経て89年に退官。
警備局畑を歩き、東大安田講堂事件、連合赤軍浅間山荘事件などで現場指揮に当たる。「危機管理」の専門家として、『平時の指揮官・有事の指揮官』『連合赤軍「あさま山荘」事件』などの著書多数。最新刊は『わが上司 後藤田正晴 決断するペシミスト』(文芸春秋)。(写真=共同通信)

「警察は新たな危機に対応できる体制を」と訴える警察OBの論客。
サイバーテロなどの専門家を外部から招聘する必要性があると見る。
危機管理の要諦として「国家の役割、地方の役割」の再配分を求める。
頻発する不祥事には、キャリア制度と人事評価制度の刷新断行をと進言する。

(聞き手は本誌編集長、小林 収)

カナリアでサリン探知する情けなさ

 最近、警察を巡る不祥事が頻発しています。官僚不祥事には国民も慣れっこですが、さすがに警察もとなると、非常に危機を感じます。しかも、従来になかった型の犯罪が多い。

 まさに「ブルータスよ、お前もか」ですよ。実はある尊敬する大蔵OBから先日、電話がかかってきました。怒られるかと思ったらそうじゃない。「警察がだめになったら国民の命に関わる。何とでも応援するから、何とか再建しろ」と言うんです。私自身は数年前から危機感を持っていました。現状の警察の体制は、新しい型の犯罪に何の対処もできない仕組みになっている。

 歴史的に見ると、20世紀の国家の危機管理体制は、「戦争と革命の防止」でした。戦争の方は日米安全保障条約がありますから、警察はいわば革命の防止を担ってきたわけです。

 だから、警察の主力は警備・公安なんですよ。ここに最精鋭を集めた。次いで凶悪犯罪を担当する刑事部門。さらに交通かな。ところが、昔、警邏とか保安、防犯、今で言う警察庁生活安全局、警視庁その他では警察安全部といったところは傍流だったんです。力を入れてこなかった。

 家出人の捜索なんかは本気になってやらない。北朝鮮による拉致疑惑だって、横田めぐみさん事件が騒がれるまで本気じゃなかった。今の少年問題だって、少年法で罪にならないから学校任せ。精神障害者が引き起こす犯罪も、精神障害関連は厚生省だから、保健所任せ。それからストーカー。これは痴話喧嘩としか思っていない。