「ドラえもん」や「ハローキティ」など、日本は多くの人気キャラクターを生み出していますが、ゲームの普及とともに世界に広まった「マリオ」は、世代を超えて愛されるキャラクターとして定着しています。今回は、マリオを世界に送り出した任天堂を50年にわたって率いた、山内溥氏のインタビューをお届けします。

掲載:2001年4月9日号(記事の内容は掲載当時のものです)

<span class="fontBold">山内 溥(やまうち・ひろし)氏</span><br />1927年11月7日京都府生まれ、73歳。49年12月任天堂入社、社長に就任。50年早稲田大学専門部法律科卒業。大学在学中に2代目社長だった祖父が死去、家業だった丸福かるた販売(現任天堂)を継いだ。以後50年にわたって経営の指揮を執り続ける。83年7月に家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」を発売以来、家庭用ゲーム市場をリード。3月に最新鋭機「ゲームボーイアドバンス」が発売されたばかりの携帯ゲーム「ゲームボーイ」シリーズは、89年4月以来、全世界での累計出荷台数が1億台を超えるロングセラー商品となっている。<br />(写真=ロイター/アフロ)
山内 溥(やまうち・ひろし)氏
1927年11月7日京都府生まれ、73歳。49年12月任天堂入社、社長に就任。50年早稲田大学専門部法律科卒業。大学在学中に2代目社長だった祖父が死去、家業だった丸福かるた販売(現任天堂)を継いだ。以後50年にわたって経営の指揮を執り続ける。83年7月に家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」を発売以来、家庭用ゲーム市場をリード。3月に最新鋭機「ゲームボーイアドバンス」が発売されたばかりの携帯ゲーム「ゲームボーイ」シリーズは、89年4月以来、全世界での累計出荷台数が1億台を超えるロングセラー商品となっている。
(写真=ロイター/アフロ)

業界の盟主の座から転げ落ちたのも束の間、王者はやはり強かった。ゲーム市場全体が伸び悩む中、携帯ゲームで独走する。ハードの論理に背を向け、「楽しい」「面白い」を徹底して追求。それが、浮沈の激しい業界で二枚腰の強さを維持する原動力だ。

(聞き手は本誌編集長、野村 裕知)

わかりにくいゲームビジネス

 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が家庭用ゲーム機「プレイステーション2」を発売したのは昨年3月。SCEが圧勝した、と思っていたら、最近、ゲーム市場は縮小し、SCEの収益も苦しいと言います。では誰が儲けているかといえば、任天堂だと。ゲーム業界で何が起きているのか。さっぱりわかりません。

 僕はプレステ2の発売前から言っていたんですよ、皆さんがおっしゃるようにはならないと。言っているのは私だけでしたけどね(笑)。

 ゲームビジネスというのはね、本当にわかりにくい。そもそもゲーム業界の人でもわかっていない人が少なくないんです。ですから、業界以外の方がおわかりにならなくたって、むしろ当たり前なんですね。

 じゃあどこがわかりにくいかというと、まずゲームは娯楽であるということです。娯楽が目指すのは「役に立つ」ではなく、「楽しい」とか「面白い」なんですね。娯楽品を売るビジネスはゆとりがない地域では絶対成立しない。ご飯も満足に食べられないようなところで娯楽品を売ろうと言ったって、売れません。別になくたって生きていられるわけですから。

 普通の企業は生活に必要な商品、それも多くはハードを作って売っているわけです。世界で大きな企業といえば、例外はありますが、ほとんどがハードを作っている企業でしょう。ハードの視点でモノを見れば、「高性能」とか「高機能」を追求するのが当たり前です。彼らがゲームを考えると、映像のリアルさとか迫力とかを重視するようになる。でもそれは、私たちが目指す「楽しい」、「面白い」ということとは離れてくるんですよ。この考え方というか発想の乖離というのは、実はものすごく大きい。

 確かにある時期は、ハードの視点でゲームを考えても良かった。なぜなら、コンピューターゲームが人々にとって珍しかったからです。ある時期は人々がゲームに夢中になりました。ちょっとオーバーかもしれないけれども、まさにゲーム市場という新しい市場が彗星のように現れて、そして燎原の火のように広がったんです。

 それにすっかり、かすまされてしまったんですね。ゲームというのはまだまだ拡大していくんだと。そこにハードを扱っている会社が強烈な関心と興味を持ちました。半導体メーカーなんか特にね。マスコミもどんどん話を盛り上げて、虚像が形成されて実像が見えなくなってしまった。

 僕は「そんなのは違う。あなた方の言っているのは間違っている」と言ったんですが、逆に「何を言っているんだ」と。任天堂は「スーパーファミコン」ですごく儲けて市場を押さえたけれども、SCEのプレステに負けたから負け惜しみを言っているんじゃないかと言われてしまった。

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