全4771文字

能力なければ社長はクビだ

 日清は世襲経営だが、百福氏は決して家族に甘いわけではない。81年に社長に就任させた長男、宏寿氏を83年に更迭、自身が会長と社長を兼任。その2年後に副社長の宏基氏を社長に昇格させた。宏寿氏は麺事業への興味が薄く、これに我慢ならなかった百福氏が更迭を決断したとされる。

安藤氏:前の社長(宏寿氏)をクビにしたのを見ているから、今の社長(宏基氏)は働き過ぎるくらい働いておるんですわ。周りに評判を聞くと「あの人はやっぱり社長ですわ」と言う。大学でマーケティングをしっかり勉強しているし、若い者とのやり取りもうまくできているようです。

 世襲だけで(宏基氏の)社長を決めたのではありません。その器だから社長に据えたのです。社長たるもの、仕事に熱心じゃなきゃ。口先だけではだめ、約束したことは守らなければいかん。100の言葉よりも自分が直接行動し、その道に精通しないといけない。

 もし社員に今の社長より優れている者がおれば、僕はほかの人を(社長に)採用するかもしれない。東京大学卒の官僚出身者だって、力が不十分なことを理由に、会社を去ってもらったこともある。すべて実力次第です。

 時には社長を叱ることもあるし、社長も私に相談してくる。最近は社長に、「日本では日清のブランド力は高いけれど、それだけに頼るなよ」と言っています。

 創業前に理事長を務めていた信組が破綻した経験が教訓となり、日清は実質無借金経営を貫く。日清の2003年3月期の自己資本比率(連結)は70.4%、1600億円以上のキャッシュを有する。株式市場からは企業買収などで資金を活用すべきとの声が強いが、百福氏は安易に受け入れる気配はない。

安藤氏:「日清はカネがあるのに」とよく言われますが、僕は問題にしていない。(株式の売買に関与する)証券会社には証券会社なりの思いがあるでしょうが、彼らが言った通りにやっていればいいというわけではない。

 会社にカネがあるというだけで、心強いじゃないですか。銀行に預けていたカネだって返ってこない可能性がある時代です。私はベンチャー企業家として、給与が払えないかもしれないという事態も経験した。その精神は忘れません。カネがなければ、社会から信頼されなくなりますよ。

 カネはあるわけですから、見返りがはっきりするようなものについては、100億円や200億円は出せますよ。ただ、多くの企業がM&A(企業の合併・買収)をやるから我々もついていったということになると、後でケガします。上っ面だけ見て何かをやるということには、僕はやかましい。遅れても二番煎じの方がいいこともある。慎重にやります。