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日経ビジネスが50年にわたる歴史の中で報じてきたレジェンドたちのインタビューを紹介するシリーズ。その言葉は、挑戦者の覚悟であり、時代の分析であり、未来を予見するものです。第1回は、経営の神様と呼ばれた松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助氏です。

掲載:1983年10月3日号(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

 “経営の神様”松下電器産業の松下幸之助相談役。ニッポンの経営の源流を遡ると、この人の経営に突き当たる。 創業者精神をとらえ直すうえで、幸之助翁のたどった道は豊かな教訓を含んでいる。「苦労なんてせなんだな。いつも自然体。熱意さえ持てればいい。 それが経営のひらめきを生む。」やわらかい語り口の中にも創業者としての一徹さを、かいまみせた1時間余りであった。(聞き手は本誌編集長、 杉田亮毅)

松下 幸之助(まつした・こうのすけ)氏
明治27年11月27 日、 和歌山県生まれ、88歳。 明治37年和歌山市雄小学校を四年生で中退し、 大阪の火鉢店に丁稚奉公。その後、 自転車屋、 大阪電灯などの勤務を経て、 大正7年個人経営の松下電気器具製作所をつくる。 昭和10年株式会社の松下電器産業を設立、 同社社長就任。36年会長、48年相談役。社業のかたわら、PHP研究所を通じた文化活動を展開、最近は松下政経塾を設立して将来の政治を担う人材教育にも力を入れている。
(写真/Bill Ray/Getty Images)

 低成長、技術の急激な変化に直面し、規模の大小にかかわらず企業は今、中長期の生き残り戦略を迫られています。一方ベンチャービジネスなどが輩出し 、新たな創業者時代を迎えて、いろいろな面で経営のあり方が問われています。 そこで今日はニッポン経営の源流ともいわれる松下式経営の極意を語っていただこうというわけです。

 経営の極意とかなんとか訊かれるが、そんな難しいこと考えてやってきたわけではないんですわ。まあ、強いて言えばひらめきでんな。自分で経営している時は、これが一番よろしおますな。 あっちこっち考えておったらなかなか決まらん。 役員たちになまじっか相談しようなんて思うと、 判断を間違える。 決めてから 「こうするで」と報告する。 このやり方でんな。 他人には 「衆知を集めて決めます」と言ってはいますが、本当はそうなんや。 それが経営者の責任というもんです。

消贄者がええな、 と思うた商品は必ず市場に受け入れられる

 経営のひらめきをつかむには、日ごろ、どんなことに気をつければいいのでしょうか。

 ひらめきいうても、カンだけではだめですねん。常に熱心な気持ちを持ち続けること。これが大事ですわ。カンをものにできるかどうかは、後の集中力によりますな。

 電器屋を始めた当時、何か自転車に関係する商売はできんもんかと考えましてね。その頃の自転車というと、いまの自動車くらいの重みを持っていたからね。 結局、電池式のランプを考えついたわけや。電池式の自転車ランプは当時、ないわけじゃなかったけど、2~3時間で電池がなくなってしまう。使いもんにならんのや。

 そこで、ひらめいたのですね。

 ちょうど5倍球という消費電流の少ない豆球が開発されたのを知っとった。あとは、自分で電池を工夫したら、30時間も使える自転車ランプがでけたんや。ローソクは1本2銭で1時間しかもたん。このランプは30銭の電池で30時間ももつんや。ひらめきとは言っても、簡単な組み合わせやな。本当の問題はそれからやった。