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イスラム国家でも新型コロナウイルスワクチンの接種が始まっている(写真:AFP/アフロ)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大し始めた当初からイスラーム(以下、イスラム)世界の一部で話題になっていた興味深い議論が、ワクチン実用化が現実になりつつある現在、改めて注目されている。その議論の主役の1つは中国である。

 さて、中国は新型コロナウイルス感染症のパンデミック発生源とされ、米国などから激しい非難を浴びていた。その汚名返上の意味もあるのだろう、中国は発展途上国を中心に積極的な外交攻勢をかけた。まずは、マスク不足に悩む発展途上国に大量のマスクを配るマスク外交を展開。最近ではそれに加えて、中国が開発したワクチンを多くの国々に提供している。

 すでに中東を含むイスラム世界ではバハレーン(以下、バーレーン)やアラブ首長国連邦(UAE)、エジプトなど、東南アジアではインドネシアやマレーシアなどで中国製ワクチンの承認・接種が始まっている。中国がこれを「健康シルクロード(健康丝绸之路)」と呼んでプレーアップするのに対して、欧米のメディアはこの「シルクロード」を「一帯一路」構想を医療の面で補強するものとして警戒感を強めてきた。

 とはいえ、欧米の製薬会社が開発したワクチンが財政的に余裕のない発展途上国にいきわたるかどうかは不明であり、代わりに中国がきちんとしたものを提供してくれるのであれば、文句はいえないはずだ。もちろん、欧米や日本の懸念どおり、その後、被供給国に対する中国の影響力が拡大する可能性は否定できない。

 ただ、欧米メディアが指摘するのは、それだけではない。中国のワクチン開発や製造過程が不透明であり、国際的な基準を無視しているとも指摘している。したがって効果や副作用などでの不安は依然として払拭されていない。

コロナワクチンはハラールか?

 最近、イスラム世界で議論になっているのは、実はこれではない。中国製を含め、新型コロナウイルスに対するもろもろのワクチンがイスラム的に許されるかどうかという議論である。日本ではあまり報道されていない点だ。

 要するに、コロナウイルス用ワクチンが「ハラール」なのか「ハラーム」なのか、だ。簡単にいえば、イスラム法(シャリーア)で許されているものがハラールであり、許されていないものがハラームである。日本でもハラール認証(日本ではハラル認証とも)などのかたちでだいぶ認知されるようになっている。ただし、日本でハラール認証というと、食品ばかりが取り上げられるが、実際には医薬品も含まれるし、もっと幅広く人間の行為全般に当てはめることができる。

 ハラールと認定されていれば、イスラム教徒は安心して口にしたり、行動したりできるが、ハラームとされれば、敬虔(けいけん)なイスラム教徒は食べたりすることができなくなる。

 この議論ははじめインドネシアやマレーシアなど東南アジアのムスリム諸国で活発になった。中東ではそれほど大きな議論にはなっていなかったが、さすがにここにきて、イスラム法の指導者たちから相次いで意見が出てくるようになった。