「香港・ウイグル問題は中国の内政」との文在寅発言が注目を集めた(写真:新華社/アフロ)
「香港・ウイグル問題は中国の内政」との文在寅発言が注目を集めた(写真:新華社/アフロ)

 12月23~24日、中国の北京と成都で日中韓3カ国の首脳による一連の会談が行われた。目玉となる日中韓首脳会談は今回が8回目。北朝鮮情勢について日中韓は「朝鮮半島の完全な非核化に関与」しており、「関連する国連安保理決議に従った対話や、外交を含む国際的な協力などによってのみ朝鮮半島の完全な非核化と恒久的な平和を達成できる」などとした成果文書を発表した。

 こうした「成果」に茶々を入れるつもりは毛頭ない。だが、元来、合意内容が3カ国の最大公約数にとどまらざるを得ない3カ国首脳会談は、具体的な合意内容よりも、それが開催されること自体に象徴的意味がある場合が少なくない。今回も、筆者がより注目したのは一連の2国間首脳会談だった。本稿では、現時点で入手可能な公開情報に基づき、これら日中、日韓、中韓の首脳会談のポイントを読み解いていきたい。

李氏朝鮮時代に回帰する韓国外交

 一連の会談を分析する上でまず筆者が考えた仮説はこうだ。

 韓国外交は今変化しつつある。文在寅(ムン・ジェイン)大統領の頭の中では、冷戦時代に日米韓が築いた「反共」同盟の時代は既に終わっている。文政権は、中国の台頭、北朝鮮の核武装化、米国の影響力の相対的低下という新たな状況を踏まえ、外交政策を変更しつつある。今や朝鮮半島は、周辺の強国とバランス良く付き合うことにより自国の安全を確保するという、李氏朝鮮までの伝統的な「均衡」外交に回帰しつつあるのだ。

 大国間の勢力均衡を図りながら自国の国益を最大化する、といえば聞こえは良い。だが、一つ間違えれば、それは韓国が、関係国の顔色を見ながら「八方美人」を繰り返し、適切なタイミングで戦略的決断を行わない、もしくは行うことができない「優柔不断」外交に陥る危険をはらんでいる。筆者の見立ては、今回の一連の首脳会談でも、こうした韓国の弱点が露呈している、というものだ。以上を前提に各首脳会談を見ていこう。

日韓首脳会談:「合意なし」が前提だった

 首脳会談といっても千差万別だ。今回の日韓首脳会談は共同声明どころか、共同プレス発表や共同記者会見すら予定されなかった。このことは会談前から「合意」など想定していなかったことを意味する。日韓双方とも譲歩が難しいことは会談前から分かっていた。されば、今回の会談が平行線のまま、双方で言い分の応酬となり、意見の一致がなかったからといって驚くに当たらない。

 日本側は貿易管理問題で一定の「譲歩」を行っており、ボールは韓国側にあるとみている。これに対し、韓国は国内で政治スキャンダルや経済不振が表面化する一方、外国、特に米国からの強い圧力を受けていた。日米と中朝の間の「バランス」を維持することは想像以上に難しかったのではないか。特に、来年4月に議会選挙を控える文在寅政権にとって、徴用を巡る問題で新たに対日「提案」を行う状況にはなかったのだろう。

 今回の公式発表でもう一つ気になったのは、韓国国会議長が進めるいわゆる「新提案」に関する言及がなかったことだ。通常なら公式発表で言及されない事項こそ最重要問題であることが多いのだが、今回「議長提案」が動きそうな兆候は今のところない。韓国内にも反対があるのだから、日本政府は韓国の「お手並み拝見」となる。文政権が戦略的判断に基づく政治決断を下せる状況にない以上、日韓関係の先行きは決して楽観できない。

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