ドイツで12月8日に発足したショルツ政権の最初の難局は、新型コロナウイルスの変異型「オミクロン型」との戦いだ。政府・議会は2022年1月に感染者数が再び急増すると見て、ワクチン接種の部分的な義務化など対策の強化に踏み切った。

オミクロン型との戦いで、政府が最重視しているのは予防接種だ。ドイツ連邦議会は12月11日、感染症防止法の改正案を可決し、医療・介護従事者にワクチンの接種を義務付けた。これらの職種に携わる市民は、2022年3月15日までに接種を終えなくてはならない。
一部の職種とはいえ、同国が新型コロナワクチンの接種義務を導入するのは初めて。さらに医師・看護師だけではなく薬局職員、歯科医、獣医にも接種作業を行う権限を与え、2021年末までに3000万人にワクチンを接種することを目指す。
またオラフ・ショルツ政権は連邦首相府に新型コロナ危機対策本部を設置し、連邦軍のカルステン・ブロイヤー少将にロジスティクスの指揮を命じた。同氏はこれまでも連邦軍兵士による病院や介護施設の支援、物資の運搬などを統括した経験を持つ。
ショルツ首相は12月15日に連邦議会で施政方針演説をし、「連邦政府はあらゆる手段を使って新型コロナと戦う。パンデミックが起きる前の生活を取り返すためにタブーはない」と述べて、ウイルスとの戦いを当面の最重要課題とする方針を明らかにした。
同氏は首相就任前の11月30日にドイツ第2テレビ(ZDF)とのインタビューで「2022年2月下旬か3月上旬までには、12歳以上の全ての市民に対するワクチン接種義務を導入したい」と語っており、連邦保健省や法務省は、法制化のための準備を進めている。
首相が一転して接種義務化を主張
実はショルツ首相をはじめとするドイツの大半の政治家は2020年3月から2021年10月まで、予防接種の義務化に反対していた。しかし2021年11月以降、デルタ型の感染者が急増し、毎日4万~5万人ずつ感染者数が増え、1日の死者数が400~500人に達している。このため同首相らは、180度意見を変えて接種義務の導入を要求し始めた。
同首相らが「転向」して義務化を主張し始めたのは、ドイツの接種率が70%にも達していないからだ。同国は、接種率が西欧で最も低い国の1つである。この国には、旧東ドイツで人気が高い極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持者や、自然療法の信奉者、もしくは政府の権威を信じないオルタナティブな生き方を重視する者らを中心に、予防接種に頑として反対する市民がいる。
スペインやイタリアが2020年春のコロナ第1波で多数の死者を出したのと異なり、ドイツではそうした事態が起きなかったため、市民の接種意欲が低かった。
またドイツでは、政治家たちが9月26日まで連邦議会選挙や連立交渉などに時間を割かれたこともあり、医療・介護従事者に対する接種義務化や、職場での接種済み・治癒または陰性証明書の提示義務化、ワクチンのブースター接種など「冬への備え」が他国に比べて大幅に遅れた。
投票日から新政権が誕生するまで約2カ月の権力の空白期が生まれた。ドイツは運悪くこの時期に、デルタ型によるコロナ第4波に襲われた。
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