ザクセン州で医療崩壊の危険

 現在最も医療資源が逼迫しているのは、旧東ドイツのザクセン州である。同州東部では、人工呼吸器付きのICUのベッドが満床になった病院が現れている。

 12月16日には、ザクセン州のオーバーラウズィッツァー・ベルクラント病院のマティアス・メンゲル医長が、あるオンライン会議で「この地域の一部の病院では、重症者数が多すぎるために、どの患者に酸素を与えるかを決めなくてはならない状況が、何度か起きた」と発言した。

 これを受けて公共放送ドイッチュラント・フンクなど一部のメディアは、「ザクセン州ではすでにトリアージ(どの患者を救うのかについての選別)」が行われている」と報じた。

 しかし現地からの情報によると、この地域の病院は、人工呼吸器が不足した場合には重症者をヘリコプターなどで他の病院に移送することで対応しており、組織的なトリアージはまだ行われていない。ただし同州のICUでは看護師の不足が深刻化しており、ザクセン州の一部の病院が医療崩壊の危険にさらされていることは間違いない。

 トリアージは、今年3~4月に欧州の他の国々で行われた。イタリア北部やスペイン、フランス東部の病院では、重症者の急増に医療スタッフが対応しきれなくなり、生存の見込みが高い患者に優先的に人工呼吸器を、回した。回復の見込みが低い高齢者や基礎疾患がある患者は、ICUでの治療を受けられずに死亡した。いまやドイツの一部の地域も、トリアージ実施の瀬戸際に追い込まれている。

第1波では優等生だったドイツも挫折

 ドイツは、今年3~5月のパンデミック第1波では、他の西欧諸国に比べて死者数を低く抑えることに成功した。例えば米ジョンズ・ホプキンス大学のデータベースによると、人口10万人当たりの死者数は今年5月28日の時点で、スペインが58.0人、イタリアで54.7人、フランスでは42.7人だった。これに対しドイツは10.2人とはるかに少なかった。また感染者死亡率がフランスでは15.6%、イタリアでは14.3%だったが、ドイツでは4.6%と半分以下だった。

 当時、ドイツでは医療崩壊は起こらず、フランスやイタリアの重症者をヘリコプターで自国の病院に運んでICUで治療するほどの余裕があった。

 英オックスフォード大学の疫学者として、鳥インフルエンザなどを研究したジェレミー・ファラー元教授は、同国のウエルカム・トラストという公益信託団体の代表だ。

 世界で最も優秀な疫学者の1人であるファラー氏は、ドイツの週刊新聞ツァイトが4月28日に掲載したインタビューで、「新型コロナウイルスと戦う最良の戦略は、1人の感染者が感染させる人の数(実効再生産数=R)をできるだけ小さくすること、そして韓国、シンガポール、ドイツに学ぶことだ」と語っている。韓国、シンガポールは死亡率が低く、世界で最も効率的にウイルスの封じ込めを行ってきた国。ファラー氏は、ドイツをこれらの国と同列に並べた。

 ファラー氏は5月15日付のフランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)とのインタビューでも、「ドイツ政府は1月に最初の感染者が見つかってから迅速に対応し、検査数を増加させた。英国政府は対応が大幅に遅れ、最初の貴重な6週間を無為に過ごす過ちを犯した。我々英国人は、ドイツのこれまでの成功に学ばなければならない」と述べている。同氏は「ドイツ政府の対応が厳しすぎたとは思わない。ドイツは多くの人の生命を救った。ドイツ人は、これまでの成果を誇りに思ってよい」と語っていた。

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