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米国と中国が12月13日、貿易摩擦における「第1段階の合意」に達した。中国経済に詳しい瀬口清之キヤノングローバル戦略研究所研究主幹はこれを「2020年をにらんだトランプ大統領の選挙対策」と見る。同大統領が仕掛けた貿易戦争は自らの首を絞める事態を招いており、企業、農業従事者、消費者の支持を失う恐れが高まっている。本丸と言える、技術や市場環境をめぐる摩擦について「中国は従来とは異なる覚悟で取り組む可能性が高い」と見る。経済改革の最後のチャンスを潰すことになりかねないからだ。

(聞き手 森 永輔)

中央経済工作会議で発言する、中国の習近平国家主席(写真:新華社/アフロ)

米国と中国が12月13日、貿易摩擦における「第1段階の合意」に達しました。米国は12月15日に予定していた追加関税第4弾のフル発動を見送ります。来年1月と見込まれる署名の後、米国は第4弾の一部(今年9月に発動)1200億ドルに課している15%の追加関税率を7.5%に引き下げることも予定しています。

 これに対して中国は、対抗措置として予定していた、木材や織物など3361品目を対象とする5~10%の追加関税を見合わせます。中国はこれに加えて、米国製の自動車や同部品に対する最大25%の追加関税を復活する措置も取りやめます。

 米国の説明によると、中国は関税とは別に、米国からの輸入を今後2年間で2000億ドル(約22兆円)増やすことを約束しました。

 この合意をどう評価しますか。

自らの首を絞めたトランプ大統領の貿易戦争

瀬口 清之(せぐち・きよゆき
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
1982年東京大学経済学部を卒業した後、日本銀行に入行。政策委員会室企画役、米国ランド研究所への派遣を経て、2006年北京事務所長に。2008年に国際局企画役に就任。2009年から現職。(写真:丸毛透)

瀬口:ほぼ事前に予想していた方向通りの内容でした。この内容だったら10月半ばの時点で合意できたはずなのに、なぜこの時期にずれ込んだのか、それが不思議なほどです。

 米国が追加関税第4弾のフル発動を見送ったのは、中国が譲歩したからではなく、ドナルド・トランプ米大統領の選挙対策が原因です。2020年に大統領選挙を控えているにもかかわらず、米国ではこの春から、トランプ大統領が進める貿易政策に対する農業従事者の不満が高まっていました。中国が課す報復関税によって、対中輸出が振るわなくなったからです。米国大豆協会(ASA)のデイビー・ステファンズ会長が「米中貿易摩擦の長期化は昨年分の在庫と今年の収穫を抱えた農家の経営状況を悪化させる」と8月に訴えたのはその一例です。