アフガニスタンから帰還した米軍兵士。ただし、これは新たな対中抑止の始まりとなる(写真:ロイター/アフロ)
アフガニスタンから帰還した米軍兵士。ただし、これは新たな対中抑止の始まりとなる(写真:ロイター/アフロ)

 12月の第2週、筆者が担当する大学ゼミで本年最後の授業があった。学生たちに「過去1年間で最も重要な国際的行事・事件は何か」と問うてみた。回答は、第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)からミャンマーのクーデター、ドイツの政権交代、備蓄原油放出、核兵器禁止条約まで多岐にわたったが、最も多い答えは米軍のアフガニスタン撤退とバイデン米政権の誕生だった。さすがは我がゼミ生。手前味噌だが、意外に本質を突いていると感心した。

 それはともかく、100年後の歴史家たちは「2021年」をいかに評価するだろうか。正確に予測することは不可能だろうが、ある程度の推測はできる。ちまたでは台湾をめぐる「米中対立」に関する言説ばかりが目立つが、現下の国際情勢はそれほど単純なものではない。されば、今回は21世紀前半の現代史の大局を念頭に、2021年を回顧しつつ、余裕があれば、2022年の展望を試みよう。

米国の対外政策における優先順位

 先日、航空自衛隊幹部学校の航空研究センターが主催するシンポジウムで話す機会があった。その冒頭で筆者は、「2021年8月末のアフガニスタン駐留米軍の撤退は世界の戦略環境の大きな変化を象徴する事件」と前置きの上、これにより米国外交・安保政策における「優先順位」が変化し、ワシントンの関心が第2次大戦後の「米ソ冷戦」から、9.11後の「テロとの戦い」を経て、「中国の台頭」に移り始めた可能性があると述べた。

 バイデン大統領がアフガニスタンからの米軍撤退を発表したのは、4月16日に日米首脳会談をする直前だった。この時系列は決して偶然ではない。アフガニスタン駐留米軍の撤退発表と、日米首脳会談や主要7カ国首脳会議(G7サミット)での中国と台湾への言及は、全体が1つのパッケージだと見てよいだろう。少なくとも中国は、米国の外交・安全保障政策の目的がやはり中国の台頭を阻止することだとの確信を深めたに違いない。

米中衝突は三度目の正直?

 航空自衛隊シンポジウムで、筆者は続けて「米国外交・安保政策のこのような優先順位の変更に伴い、米軍が戦うかもしれない戦場も、欧州・中東地域からインド太平洋地域へ移り始めたと感じている。そのことを示す象徴的な出来事が8月30日の米軍アフガン撤退だった」などと述べた。こうした変化の一部は米軍内部で既に顕在化しつつある。

 その典型例が米海兵隊の大改革だ。2020年3月末、デビッド・バーガー米海兵隊総司令官は「2030年の戦力設計」なる文書を発表し、中国の台頭などの新たな安全保障環境に対処するため、海兵隊の定員削減、戦車部隊の全廃、歩兵大隊の削減、「F-35」の機数削減などと並行し、海軍前方展開部隊の強化、長距離対艦ミサイルや無人機システムの増強を提案、実行しつつある。人民解放軍との戦闘を想定していることは間違いないだろう。

 振り返ってみれば、過去70年間に米中は既に2回戦っている。1度目は1950年の朝鮮戦争であり、2度目は1960年代に泥沼化したベトナム戦争だ。前者について中国は人民解放軍ではなく、義勇軍を派遣した。後者についても中国の軍事的支援は間接的なものだった。3度目となるかもしれない今回は従来と異なり、米中の正規軍同士が直接戦闘するに至る可能性すら懸念されている。

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