さらに、翌11月30日には経済チームの陣容も明らかになった。経済主要3ポストも、全て女性が占めることとなる。財務長官にジャネット・イエレン(前FRB=連邦準備理事会=議長)、OMB(行政管理予算局)局長にニーラ・タンデン、CEA(大統領経済諮問委員会)委員長にセシリア・ラウズ(プリンストン大学公共政策・国際関係大学院長)という陣容だ。バイデン政権では高官が女性であることなど当たり前、大きな話題にならなくなりつつある。

ヒラリー人脈よりもオバマ人脈を重用

 極め付けだったのが国防長官人事だ。

 指名発表が遅れていた国防長官には12月8日、ロイド・オースティン元中央軍司令官(退役陸軍大将)をアフリカ系として史上初めて指名した。オースティンの指名は恐らく、今回の一連の人事の中で、イエレン財務長官以上にサプライズの「大番狂わせ」だったと評価できる。

 下馬評で最有力といわれてきたミシェル・フロノイ元国防次官は指名されなかった。フロノイは米ハーバード大卒、英オックスフォード大学で修士を取得した才女。米国安全保障分野では女性の政治任用職の「出世頭」だった人物だ。1997年から第2期クリントン政権の筆頭国防次官補代理(戦略担当)として活躍。第1期オバマ政権では国防次官(政策担当)、すなわち国防総省初の女性ナンバー3となった。トランプ政権のジム・マティス国防長官(当時)がフロノイを国防副長官に抜てきしようとしたことも有名な話である。

 それでは、なぜ今回はフロノイでなくオースティンなのか。理由は2つ考えられる。1つ目は「多様性の反映」だ。バイデン政権は既に多くの女性高官を指名しており、国防長官が女性である必要は必ずしもなかったのだろう。しかも、フロノイはバイデンよりもヒラリーに近く、また民主党左派から国防産業に近いと批判されていた。ワシントンではいかに優秀な人材であっても、状況次第で、人事は瞬時に変わり得る。

 第2の理由も、やはり「多様性の反映」である。今回の高官人事では女性の抜てき多かったせいか、アフリカ系が主要閣僚レベルに少ないという批判が根強かった。最終的に国防長官候補には2人のアフリカ系男性の名が挙がった。オースティンは、バイデン次期大統領の息子である故ボー・バイデンの上司だったこともあり、個人的な関係が決定打となったようだ。

 最後にもう1つ付け加えたいのが、スーザン・ライス元国家安全保障担当大統領補佐官、元国連大使の処遇だ。彼女が、国務長官の有力候補に名を連ねながら結局指名されなかった理由は、能力の問題もさることながら、上院での承認が難しいと予想されたからだという。そのライスをバイデンはDPC(国内政策会議)のトップに指名した。彼女にオバマ元大統領との関係の深さがなければ、恐らくあり得ない人事だっただろうと邪推する。

ワシントンで4年ごとに繰り返される悲喜劇

 こうして見てくると、バイデン政権の人事には一定の傾向があると言わざるを得ない。第1は、「第3期オバマ政権」という性格である。筆者が勝手に言っているのではない。これは民主党びいきのあのCNNが最近流している論評だ。確かに、バイデン次期政権の閣僚レベルにはブリンケン、ケリー、ライスなどオバマ政権(当時)のOB、OGが圧倒的に多い。恐らくバイデン次期大統領は「安全運転」に徹する考えだろう。

 第2は、第1と関連して、「オバマ系」人脈が躍進したことだ。この4年間で民主党の主流が「クリントン夫妻系」から「オバマ夫妻系」に変わりつつあるという話を最近耳にした。言われてみれば、確かに今回も「オバマ系」人脈には元気がある。あのスーザン・ライスですら、畑違いの内政担当、かつ、ホワイトハウス内の議会承認不用のポストではあるものの、ご栄転されているのを見ると、ますますその感を強くする。

 第3は、第2の傾向の裏返しで、「ヒラリー系」人脈の伸び悩みだ。中でも典型例は、フロノイなど「ヒラリー系」民主党政治任用職集団だろう。

それにしても、ワシントンの人事は非情だ。4年前、ヒラリーの大統領選勝利がほぼ確実視されていたころ、ヒラリー系の人々には飛ぶ鳥を落とす勢いがあった。あれから4年、彼ら・彼女らは再び冷や飯を食うのだろうか。それとも副長官以下のポストで処遇されるのか。個人的には友人たちの去就が大いに気になる。

(敬称略)

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