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ジョンソン首相率いる保守党が365議席を獲得して圧勝し、EUからの離脱を確実にした。次の焦点は、英領北アイルランドの取り扱いと、EUや米国とのFTA交渉に移る。英領北アイルランドは、実質的な経済特区となり新たな投資が集まる可能性がある。FTA交渉の課題は同一競争条件の維持だ。庄司克宏・慶応義塾大学大学院法務研究科教授、ジャン・モネEU研究センター所長に聞いた。

(聞き手 森 永輔)

ジョンソン首相は365議席を得て大勝した(クレジット:ロイター/アフロ)

12月12日に実施された英総選挙で保守党が圧勝しました。獲得議席は365(総議席数は650、実質的過半数は320前後)。1987年にマーガレット・サッチャー首相(当時)率いる保守党が376議席を獲得したのに次ぐ大勝利となりました。この勝因をどう分析しますか。

庄司:大きく2つあると思います。1つはボリス・ジョンソン首相が実行力を持ち、安定をもたらす存在であるとアピールできたことです。「実行力」の証しは、EU(欧州連合)との間で10月17日に新たな離脱協定案に合意したこと。EUは「テリーザ・メイ前首相との間にまとめた離脱協定案の再交渉には応じない」と強硬な姿勢を貫いていましたが、これをひっくり返して新たな離脱協定案に合意しました。「2019年10月末に離脱する」との公約はけっきょく延期することになりましたが、有権者は「これは議会のせい」と理解したのでしょう。

 「安定」は、この勝利により、新離脱協定案を議会で可決し、EUから離脱することを確実にしたことです。99%は大丈夫でしょう。

庄司克宏(しょうじ・かつひろ)
慶応義塾大学大学院法務研究科教授、ジャン・モネEU研究センター所長。1957年生まれ。慶応義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。専門はEUの法制度と政策。主な著書に『欧州連合』『欧州ポピュリズム』『ブレグジット・パラドクス』がある。(写真:的野弘路)

 他方、労働党は離脱派と残留派を抱え調整がつかず、新たな国民投票を公約に掲げることになりました。国民の目には「まだ決められないのか。労働党政権では、国民投票、EUとの再交渉と、EU離脱をめぐる混乱が今後も続く」と映りました。新たな国民投票でもし残留が多数を占めたら、さらなる混乱となるのは必至です。

99%というと、残りの1%は何ですか。

庄司:スキャンダルが明るみに出て、ジョンソン首相が窮地に陥る懸念です。同首相の磊落(らいらく)な性格から見て、こうした事態が起こらないとは限りません。

保守党の中には、「合意なき離脱がよい」と考える最強硬派や、「残留」を望む勢力もいます。彼らが造反する心配はありませんか。

庄司:最強硬派の「欧州調査グループ(ERG)」は既に新離脱協定案に賛成しています。同案を審議する過程でも彼らは造反していません。