問題は、バイデン政権の取り組みが「いつ」「どれだけ変わるのか」ですね。その点について、米中の有識者はみな「分からない」と口をそろえます。就任から1年間は、新型コロナ対策と米国経済の立て直しに翻弄されざるを得ないでしょう。さらに、貧富の格差拡大や人種差別に根差す米国社会の分断の解消、財政の健全化、オバマケアの再構築などにも取り組む必要があります。
また、バイデン政権が中国に対して歩み寄りの姿勢を示しても、中国側がそれに呼応して具体的な政策面で融和姿勢を示さなければ米国側も動くことができなくなります。例えば、新型コロナに対するワクチンの供給、気候変動に関する政策協力、香港への対応などがその試金石になるとみられています。
新たな経済5カ年計画を始動へ
中国政府が、協力せざるを得ない事情とは何ですか。
瀬口:本格的な経済改革を、本気で進める必要があるからです。中国政府は10月の5中全会(中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議)で、2021年を開始年とする第14次5カ年計画の方針を示しました。今はまだ素案の状態で、来年3月に開かれる予定の全人代(全国人民代表大会、日本の国会に相当)で正式に決定されます。
第14次5カ年計画では、どんな取り組みがなされるのですか。
大きな方針は「双循環」です。当面は国内の需要拡大に重点を置き、経済を国内主導で循環させる。長期的には国外との連携を促進し、内外経済の相互補完による安定的な経済発展を実現する、というコンセプトです。新型コロナ危機の影響があるので、まずは国内経済を中心に立て直す。ただし、将来的には、国内経済に依存するだけでは持続的な成長を実現するのは難しいと考えられています。それゆえ、グローバル経済の中に中国経済を組み込む必要があることを習近平(シー・ジンピン)政権は理解しています。
中国がWTOに加盟して20年がたちました。この間に中国は、グローバル経済に完全に組み込まれたのです。米国の中国専門家の多くは、米国のエンゲージメント政策はすべて失敗だったとの見方はコンセンサスではないと考えています。それは成都、重慶、武漢といった内陸部の主要都市の様子を見れば明らかです。GDPに占める輸出比率が2けたに達しています。かつては、3~4%程度しかありませんでした。
この双循環を前提に、国内では国有企業と土地保有制度の改革、国際面では外商投資法の実効ある運用などを進めていきます。国有企業と土地保有制度は言うまでもなく共産主義体制の根幹を成すものです。これまで長年にわたりこれらの改革目標を掲げながら実現できていませんでしたが、今後の5年間で同じ目標を掲げ、今度こそ実現を目指そうとしているように見えます。
国有企業改革、「カネは出す、口は出さない」へ
国有企業改革について、中国政府は長いこと旗を振ってきましたが、大きな成果はみられていません。具体的には、何をするのでしょう。
瀬口:草案では、今回も「混合所有制を進める」と表現されています。しかし、表現は同じでも、中身は異なる。具体的には「テマセック方式」と呼ばれる仕組みの導入を検討しているようです。
共産党は現在「カネも出すが口も出す」仕組みで国有企業を支配しています。国有企業の経営陣は上下2つの層から成っている。上の層は政府機関の一部門とも言える機能を有しており、国家の政策運営方針に沿って企業の経営基本方針を決めます。下の層は、この経営基本方針に沿って事業を執行する機能です。国家の政策方針と企業経営の利益が必ずしも一致しないため、そこから経営の非効率が生じることは容易に想像できます。
かつての日本の国鉄のイメージですね。国の方針としては、全国にくまなく鉄道網を敷き、国民に等しくサービスを提供すべきだけど、赤字のローカル線を抱えたままでは企業として利益は出ない。
瀬口:おっしゃる通りです。なので、これを、政府は株主としてカネは出すけれども、経営に口は出さない仕組みに変える。2階層の上の層を取り払い、下の層だけで経営をする方式に変える案です。中国パネル大手の京東方科技集団(BOE)は、事実上この方式を導入して大きな成果を上げています。
国有企業改革の進め方についてはまだ検討が続いており、議論は決着していないように思われます。口を出さない範囲、例えば幹部人事の決定権をどうするのかといった点などについてまだ検討が続いているもようです。人事への口出しを認めるか否かは、この改革の成否を決める重要ポイントと言えます。
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