バイデン政権はトランプ政権に比べて、理性的な対中政策を取るとみられる。中国の習近平政権はこれを歓迎して応じるだろう。同氏は、改革開放以来の本格的な経済改革に背水の陣で臨む意向だ。その対象は、本丸である国有企業と土地保有制度に及ぶとみられる。改革を成功に導くには、米国との関係安定化が欠かせない。中国経済分析の専門家、瀬口清之・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹に聞いた(聞き手:森 永輔)

習近平国家主席は、改革開放以来の本格的な経済改革に背水の陣で臨む(写真:新華社/アフロ)
習近平国家主席は、改革開放以来の本格的な経済改革に背水の陣で臨む(写真:新華社/アフロ)

ジョー・バイデン氏が米大統領選の勝利宣言をしてから約1カ月がたちました。バイデン政権が取るであろう対中政策で見えてきたものはありますか。

瀬口:全体的な方向感は見えてきました。ただし詳細はまだ不明です。国務長官にはアントニー・ブリンケン氏、国家安全保障担当大統領補佐官にはジェイク・サリバン氏、財務長官には米FRB(連邦準備理事会)で議長を務めたジャネット・イエレン氏らを指名するとの発表がありましたが、その下の次官、次官補、ホワイトハウスのスタッフ等はまだ明らかになっていないからです。

<span class="fontBold">瀬口 清之(せぐち・きよゆき)</span><br />キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 1982年東京大学経済学部を卒業した後、日本銀行に入行。政策委員会室企画役、米国ランド研究所への派遣を経て、2006年北京事務所長に。2008年に国際局企画役に就任。2009年から現職。(写真:丸毛透)
瀬口 清之(せぐち・きよゆき)
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 1982年東京大学経済学部を卒業した後、日本銀行に入行。政策委員会室企画役、米国ランド研究所への派遣を経て、2006年北京事務所長に。2008年に国際局企画役に就任。2009年から現職。(写真:丸毛透)

 バイデン政権は、トランプ政権が示した極端な対中強硬姿勢を修正し、エビデンス(証拠)ベースの理性的で整合性のある政策にシフトするとみられます。トランプ政権への協力を拒んでいた信頼できる多くの中国専門家が協力的になることが背景にあります。

 経済学的に言えば、米中2国間に存在する貿易赤字を議論することに意味はありません。貿易赤字はすべての輸出入の合計から生じる全体の収支として考慮すべき問題であり、2国間の貿易赤字を縮小することに経済的な意味はないのです。バイデン政権はこうした理解に立ち戻ることになるでしょう。トランプ政権は経済関係の全面的なデカップリングを目指していましたが、米中関係の専門家の間ではそんなことが実現できるはずがないというのが共通認識でした。

 加えて、バイデン政権は中国との対話の頻度を増やす努力をするでしょう。新型コロナ対策や気候変動への対応の面では協力できる案件が出てくると予想されています。中国人留学生の受け入れも原則として制限しない方向に向かうと思います。米国で学ぶ中国人留学生の多くは米国の生活や文化を好きになり、米国人の親しい友人もできます。そうした中国の優秀な若者が米中間の橋渡しの役割を担うようになり、中国が世界の国々との相互理解を深め、融和する方向へと変化する流れを形成します。トランプ政権は「中国を『責任あるステークホルダー』に変えていくエンゲージメント(関与)政策は失敗した」と断じましたが、2001年にWTO(世界貿易機関)に加盟した後、中国経済の市場化や金融自由化が一定程度進んだことを、専門家は理解しています。

 米国がバイデン政権になり、これまでお話ししたように変化するならば、中国もそれに合わせて協力すると考えます。中国政府は、協力せざるを得ない国内事情を抱えています。

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