SPY-6、イージス戦闘システムとの統合試験はこれから

 問題になっているSPY-6とSPY-7は、ここまで述べてきたプロセスのうち、どの段階まで作業が進んでいるのだろうか。

 まずSPY-6について述べる。レイセオン・テクノロジーズは2010~2012年にかけて、窒化ガリウム(GaN)を使用する送受信モジュールなどの要素技術を開発。3億8574万ドルの開発契約を2013年10月10日に米海軍から受注した。そして、約3年後の2016年6月、量産仕様機をハワイのカウアイ島にある試験施設(ARDEL:Advanced Radar Detection Laboratory)に設置した。設置したレーダーは、実艦に搭載するものと同じ構成だ。ここで2020年まで、レーダーの性能を検証するための試験を実施していた。

 量産への移行が決定したのは、この過程の2017年9月。SPY-6を搭載する最初の艦となる駆逐艦「ジャック・ルーカス」で使用するレーダー・アンテナ4面のうち最初のものを2020年7月に納入した。2020年11月の時点で、4枚のうち2枚が搭載済みとなっている。この「ジャック・ルーカス」は、2023年の竣工を予定している。

 SPY-6は、米軍の装備調達計画としては珍しく、現時点で大幅な予算超過やスケジュール遅延を起こしていない。開発の途中で、送受信に関わる重要なコンポーネント(DREX:Digital Receiver Exciter)の不具合が指摘されたが、これは量産が決定される前に解決したという。

 ただし、米政府説明責任局(GAO:Government Accountability Office)は「実際にレーダーとイージス・システムを接続して稼働させるプロセス(ALO:Aegis Light Off event)が実現するまでは、十分に成熟したと評価することはできない」と指摘している。GAOは議会の付属機関として、「国民の血税が適切に使われているかどうか」を監視する立場にある。多額の税金を投じる装備調達計画に対して厳しいことをいうのは当然の役割だ。

 さて、ここまで述べてきたのはレーダー単体の話だ。レーダー単体の試験はあくまで、そのレーダーが「要求された条件下で、目標の探知・捕捉・追尾ができる」ことを確認するためのものである。よって、次の段階として、イージス戦闘システム*と組み合わせて問題なく機能することを確認しなければならない。SPY-6はイージス・システムの「眼」となる製品だからだ。

*:イージスの根幹を成すソフトウエア。レーダーが探知したミサイルや戦闘機の情報を基に、イージス戦闘システムが適切な迎撃ミサイルなどを選択し、相手方のミサイルを撃ち落とす

 この確認のため、米海軍は2020年10月、米ニュージャージー州ムーアズタウンにあるイージス戦闘システムの陸上試験施設「CSEDS」(Combat Systems Engineering Development Site)にSPY-6を据え付けた。CSEDSは、イージス艦に載せるものと同じシステムを陸上に設置して、試験に供するための施設である。ここでは、SPY-6とイージス戦闘システムを組み合わせて、問題なく機能するかどうかを確認する。

 一方、駆逐艦「ジャック・ルーカス」が竣工した後に、同艦を用いた実運用環境下で試験を実施する。実は、4面のアンテナをすべてそろえた状態でシステムを動作させるのは、このタイミングが初めてとなる。CSEDSに設置するアンテナは2面にとどまるからだ。

SPY-7はLRDRの派生品

 次にSPY-7について見よう。こちらは「LRDR」(Long-Range Discrimination Radar)をベースモデルに開発するため、LRDRの話から始める。

 LRDRは、米ミサイル防衛局(MDA:Missile Defense Agency)が、米本土に飛来する弾道ミサイルを探知・捕捉・識別するための新型レーダーとして計画を立ち上げた。ロッキード・マーチンが提案し、同社の採用が決まった。

 配備場所が米アラスカのクリアー空軍施設に決まったのは2015年5月。米ミサイル防衛局は同年10月に、ロッキード・マーチンに対して開発を7億8429万ドルで発注した。

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