ニュージャージー州ムーアズタウンにある試験施設「CSEDS」。2019年12月の撮影時点では、まだSPY-1レーダーが取り付けられていた(撮影:井上孝司)
ニュージャージー州ムーアズタウンにある試験施設「CSEDS」。2019年12月の撮影時点では、まだSPY-1レーダーが取り付けられていた(撮影:井上孝司)

 イージス・アショアの配備計画停止に関連して、代替案に使用するレーダーの機種選定が問題になっている。防衛省は2018年7月30日に、米ロッキード・マーチン製の「AN/SPY-7(V)1」(以下SPY-7)を採用する判断を下したと発表した。これに対して、配備停止が決まり、代替案を検討する中で、米レイセオン・テクノロジーズ製の「AN/SPY-6(V)1 AMDR(Air and Missile Defense Radar)」(以下SPY-6)の方がよいのではないかという声が上がっている。

 この議論で問題になっているのが、この2つのレーダーの完成度や開発・試験の進捗である。こうした問題について論じるのであれば、まずはウェポン・システムの研究開発・試験・評価プロセスに関する正しい理解が欠かせない。

開発は、サブシステム、システム、システム統合と段階的に拡張

 乗用車、家電製品、コンシューマー向け情報通信機器の分野では、製品が完成して発売可能な段階に達したか、それに近い段階に達したところで「新製品」として発表される。だから、新製品が発表された時点で、すぐに手に入れて使用できるものだと理解して間違いはない。

 ところが航空宇宙・防衛産業では状況が異なる。そのお披露目の後にも試験・評価のプロセスが長く続く。三菱重工業の国産旅客機「三菱スペースジェット」の開発経緯を見れば容易に理解できる。

 現代のウェポン・システムは複数のサブシステムが集まって構成するシステムの集合体(System of Systems)である上に、ソフトウエア制御の比重が高まっているから、開発・試験・評価のプロセスはますます複雑なものになっている。

 カギとなる要素技術の研究開発に続いて、まずコンポーネント単位、続いてサブシステム単位、システム単位、と段階を踏んでスケールアップしながら、試作や試験を進めていく。ソフトも同様で、最初は基本的かつ不可欠な機能から実装して、段階的に拡張して完成形に持っていく。その過程で複数の審査が入り、進捗状況や開発の方向性に関するチェックを行う。

 そして、複数のコンポーネントやサブシステムを組み合わせて協調動作させるための、「すり合わせ」作業が不可欠だ。いわゆるシステム・インテグレーションである。もちろん、それに際しても試験が必要になる。

 こうして形になった防衛装備品は、2つの段階の試験を受ける。まず、当初に予定した性能・機能を実現できているかどうかを確認するための試験。これが開発試験(DT:Developmental Testing)である。

 開発試験に続いて、その装備品が実運用環境で問題なく機能するかどうかを確認する作業が必要になる。実運用する環境では、開発者が想定しなかった運用環境、想定しなかった使われ方が、往々にして起きるからだ。また、想定している任務との適合性に関する試験も実施する。このプロセスを、運用評価試験(OT&E:Operational Test and Evaluation、あるいはOPEVAL:Operational Evaluation)と呼ぶ。

 運用評価試験の内容は、軍がその装備品をどういったシナリオ、どういった条件の下で、どのように使うか、をストレートに反映する。だから、試験の詳細な内容や条件設定が公にされることはない。公にすれば、手の内を明かしてしまうことになるからだ。

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