2008年のNATOの会議において、メルケル独首相(当時、左)とブッシュ米大統領(同、右)はウクライナ加盟をめぐって意見を異にした(写真:AFP/アフロ)
2008年のNATOの会議において、メルケル独首相(当時、左)とブッシュ米大統領(同、右)はウクライナ加盟をめぐって意見を異にした(写真:AFP/アフロ)

ブカレストで11月29日に開かれたNATO(北大西洋条約機構)外相会議において、NATOはウクライナ支援の強化を約束する一方で、今年9月に同国が提出したNATO加盟申請は黙殺した。14年前に「ウクライナはNATOに加盟する」と約束したにもかかわらず、門を固く閉ざしたままだ。

 11月29日、ブカレストでの会議に参加したNATO加盟国の外相たちは「ロシアによるウクライナ侵攻、民間人に対する残虐行為、ウクライナ領土の不法な併合を強く糾弾する」という声明を発表し、ウクライナに対して「必要な限り支援を続ける」と約束した。

 外相たちは、ロシア軍が今年10月以降、巡航ミサイルなどを使ってウクライナの発電所、変電所、暖房用の熱を作るための設備を狙って攻撃していることを特に強く非難した。NATO加盟国はウクライナに発電機や暖房器具を送るとともに、ロシア軍に破壊されたエネルギー関連インフラの修理についても、ウクライナを支援すると明らかにした。

 ロシア軍の狙いは、ウクライナの気温がセ氏0度を割る中、電力、暖房、水道を使えなくすることによって、市民生活を困難にし、東欧・西欧に脱出するウクライナ避難民の数を増やすことだ。

 かつてウクライナとロシアの送電網は接続されており、電力を融通し合うことも多かった。このため、ロシア軍はウクライナの発電所や変電所などの位置を熟知しており、どこを狙えば効果的に大規模停電を引き起こせるかを知っている。

 ウクライナ政府のウォロディミル ・ゼレンスキー大統領は11月18日、「首都キーウ(キエフ)やオデッサなどで1000万人を超える市民が電力を奪われている」と語った。ウクライナ軍がロシア軍から奪回したへルソンなどでは、市当局が暖房装置のある避難所を設置し、市民が暖を取ったり、携帯電話に充電したりできるようにしている。

 11月25日にドイツの日刊紙南ドイツ新聞は、夜間に東欧地域を上空から撮影した衛星写真をウェブサイト上に掲載した。ルーマニア、ポーランド、ベラルーシなどでは暗闇の中に灯火が見えるが、ウクライナは闇に閉ざされている。ロシア軍の空爆による停電の規模の大きさを感じさせる。

独外相「インフラ攻撃でロシアは文明から離反」

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ウクライナを出国し、東欧・西欧の国に避難民として登録された市民の数は、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2月24日以来、約478万人にのぼる。ウクライナに隣接する東欧諸国は、今後寒さが厳しくなるとともに、出国するウクライナ人の数が増える可能性が高いと見ている。

 ドイツ政府のアンナレーナ・ベーアボック外相は、ブカレストでの記者会見で「ウラジーミル・プーチン大統領は、冬の寒さを武器として使おうとしている。これは国際法に違反するだけではなく、文明からの離反だ。ロシアは、エネルギー関連インフラを意図的に破壊することで、『ウクライナの子どもや高齢者などの市民が寒さ、空腹、喉の渇きで死んでもかまわない』という態度を取っている」と強い言葉で非難した。

 ベーアボック外相が使った「文明からの離反(Zivilisationsbruch)」という言葉は、ドイツの論壇で注目を集めた。この言葉は、ドイツの政治家や歴史学者たちが通常、ナチスのユダヤ人虐殺(ホロコースト)を非難するときに使う表現だからである。他の犯罪行為を非難する際には使われない。つまり「人間の文明に属さない」という彼女の発言は、ドイツ政府が他国政府を非難するときに使う言葉として最も強い表現である。

 もちろんベーアボック外相は、ナチス・ドイツとロシアを同列に並べようとしているわけではない。

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