米欧の両商会はそれぞれの企業に関する情報を、スマートフォンアプリを使って毎日発信しています。それを中国政府の高官や中国企業などのビジネスパーソンが見ているのです。投資環境の改善について話し合う中国政府との会議を定期的に開催。両商会とも、中国政府への要望を問うアンケート調査を実施して結果を公表しています。中国政府で対外開放政策を担う担当者は、両商会と接触していれば必要な情報を入手することができるため、これらを政策立案の「知恵袋」として利用しています。

 また中国米国商会は会員企業向けにサービスも提供しています。例えば、政府関係者との人脈構築など中国政府との付き合い方(対中国政府渉外)をテーマにしたセミナーです。

 まとめると、米欧の両商会は情報発信、対中政府交渉、会員企業向けのシンクタンク機能を担っているわけです。その中で両商会が持つ最大の特徴は政治外交に左右されないこと。政府間の話し合いはどうしても政治外交が絡みます。このため政治外交面での緊張が高まれば影響を受けざるを得ません。

 しかし、中国政府と両商会との関係は政治に左右されることなく、ビジネス環境について冷静に議論ができます。しかも、投資環境の改善は中国政府と外資企業の双方にとって共通の目標です。それゆえ、中国政府も両商会からの投資環境改善要望の中身を政策に反映しやすいのです。

見劣りする中国日本商会の活動

それに対して、中国日本商会の活動は……。

瀬口氏:ビジネス環境の現状を分析し、白書を作るなど、似たようなことをしています。しかし、中国政府に対し強い影響力を持っているとは言い難い状況です。例えば中国政府の高官の多くは同商会の存在を知りません。露出度が異なります。スマホによる日々の情報発信などをしていないからです。投資環境改善について話し合う中国政府との会議を開いてはいますが、中国側の出席者は商務部などにとどまり、主要官庁の高級幹部がそろって出席する米欧商会との会議に比べて範囲が限られています。

 いま中国は外国企業の投資を必要としています。中国経済の減速が長引くため、この状態はこれから長く続きます。それでも中国市場の魅力を凌駕(りょうが)する海外市場は今後10年前後は出てこないというのが日米欧の一流企業経営者の共通認識です。

 日本企業はこのタイミングを逃すことなく、必要な投資環境の改善を中国政府に求めるべきです。また日本は中国との間に歴史問題と領土問題を抱えており、政府間の関係はこじれやすい特性を持ちます。そのときに対話のパイプとして機能できるようにするためにも、政治外交に左右されにくい中国日本商会の強化が望まれます。

能力の向上が望まれる4分野

どのような点を強化すべきですか。

瀬口氏:能力向上が望まれるのは、具体的には次に挙げる4点です。第1は、投資環境の分析とそれに基づく改善要望を中国政府向けに発信する機能。例えば、日本から北京への直行便の再開や帯同家族のビザ発給の円滑化などの具体的な要望です。こうした要望事項について、エコノミストや税務・会計の専門家を常駐させ、タイムリーに情報発信する必要があります。

 第2は対中国政府渉外の強化です。中国政府の関係各部門上層部と中国日本商会との相互信頼に基づく強固な人脈を構築するとともに、各日本企業自身の交渉力向上をテーマとするセミナーを会員企業向けに開催するべきです。

 第3が情報発信です。ホームページに掲載する情報を今以上に充実させるとともに、より見やすいサイトにして、中国政府関係者や企業関係者に向けて毎日配信する。同商会の幹部が中国や日本の各地に出張し、講演や意見交換の場を通じて対面で情報発信することも必要です。中国各地の地方政府に対し、投資環境に関する改善要望を直接訴えるのです。

次ページ 課題は人材と財源