そして、サウジアラビアのサルマーン国王(以下、サルマン国王)とムハンマド皇太子がUAEとイスラエルに続いた。ただし、サウジ時間11月8日夜10時半とバイデン当選確実が報じられてから丸1日が経っていた。UAEとイスラエル、サウジの3国はいずれもトランプ大統領やその周辺と密接な関係を有しており、選挙戦中からトランプ大統領再選を期待していると考えられていた。

 ちなみに、日本の菅義偉首相の祝辞も日本時間11月8日朝であったが、時差を考えると、順番は早いほうだった。

 そして11月10日、トルコのエルドアン大統領が遅ればせながらバイデン氏に祝辞を述べた。

 祝意を表明する順番だけで判断するのは危険だが、UAE、イスラエル、サウジアラビア、トルコと米国とのこれまでの関係をみるかぎり、これらの国がトランプ再選を期待していたと考えても不思議はない。

イラン現政権とタリバンも対米関係改善を期待

 他方、米国と対立するイランはどうか。当然、「祝辞」は述べていないが、11月8日にはイランのロウハーニー大統領(以下、ローハニ大統領)が「過去の過ちを悔いて、JCPOA(編集部注:イラン包括的核合意)へ復帰することを期待」すると述べ、バイデン氏が大統領に就任することで、米国の対イラン政策がポジティブな方向に変化することに期待を寄せている。

 ただし、同日、ハーメネイー最高指導者(以下、ハメネイ師)は「米大統領選は見世物。リベラルな民主主義の醜悪な一面。結果がどうあれ、米国の現体制が政治的・道徳的に退化しているのは明らか」と突き放した発言をしている。

 アフガニスタンではアシュラフ・ガニー大統領(以下、ガニ大統領)が、バイデン氏が当選を確実にしたすぐあとに祝辞を述べた。11月11日にはそのアフガニスタン政府と対立する反米武装勢力ターリバーン(以下、タリバン)も米大統領選に関する声明を出している。声明は、米・タリバン間の和平合意(ドーハ合意)の順守を表明するとともに、米国を含む世界のすべての国とのポジティブな関係を求めていると述べた。

 かつてタリバンがアフガニスタンを統治していたときは、9.11事件の実行犯であるアルカイダをかくまったり、バーミヤーンの石仏を破壊したり、女性の社会進出を禁じたりして、世界中から非難され、結局米国の攻撃によって政権の座を追われてしまった。タリバンはその後も反政府武装勢力としてアフガニスタン国内で一定程度の勢力を保っていたが、ここにきて米国やアフガニスタン現政権との和解の道筋が見えてきた。タリバンが、バイデン政権になってもその合意にコミットすると表明したのは重要である。

 また、国際テロ組織「イスラーム国」(以下、IS)も11月12日に刊行された週刊戦果報告『ナバァ誌』第260号の論説記事で米大統領選を取り上げている。それによれば、アラブ諸国の多神教徒は、イスラーム(以下、イスラム)法ではなく、彼らが神と崇めるものの命令に従っているだけで、4年ごとにそれが代わるたびに、対応を変えているにすぎない。つまり、ISは民主主義そのものを否定し、民主的な選挙で選ばれた大統領自体がイスラム法に反しており、サウジアラビアなどアラブ諸国は、そんなものに従っているのだと批判している。

米国がイラン核合意に復帰しても関係改善は難しい

 米大統領選全体を俯瞰(ふかん)すると、中東政策は大きな争点にはならなかった。例えば、対テロ戦争、イラクとアフガニスタンにおける米軍の駐留は、選挙戦中ほとんど議論されなかった。したがって、バイデン政権はこの問題について、トランプ政権時代の政策をある程度継続するとも考えられた。

 しかし、トランプ政権は、政権移行のドサクサにまぎれて、イラクとアフガニスタン駐留米軍を削減すると発表しており、バイデン政権の対イラク・対アフガニスタン政策の選択肢を狭めてしまった。まるで、嫌がらせをするかのようである。イラク・アフガニスタンでは依然として武装勢力による攻撃が継続中であり、駐留軍を削減すべきではないとの意見は根強い。