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バイデン政権で国務長官に就くアントニー・ブリンケン氏はイスラム圏での豊富な経験を持つ(写真:AP/アフロ)

(「イスラエル首相のサウジ電撃訪問が意味するもの」も併せてお読みください)

 米大統領選挙は、現職のドナルド・トランプ大統領を破ってジョー・バイデン候補が勝利することが確実になった。トランプ大統領のあがきはまだ続きそうなので断定的なことはいえないし、新政権の顔ぶれもまだ全貌は分かっていない。だが、そろそろ「バイデン政権」の政策の中身について検討しなければならない時期ではある。わたしは米国政治の専門家ではなく、中東、特にペルシャ湾岸地域を専門としているので、“バイデン大統領”の中東政策、あるいは湾岸政策に焦点を当てて考えてみることにする。

 その前に、現在判明している閣僚人事と、バイデン当選確実に対する中東諸国の反応を整理しておこう。それによって、トランプ大統領と中東諸国との距離や、バイデン候補との関係性をある程度推測できるかもしれないからだ。

次期米国務長官は中東通

 バイデン次期大統領は11月24日、閣僚候補の名前を公表した。中東がらみでは国務長官、国家安全保障担当大統領補佐官が重要になってくるであろう。前者には、オバマ前政権で国務副長官や国家安全保障担当大統領副補佐官などを務めたアントニー・ブリンケン氏を、後者にはジェーク・サリバン氏を指名した。

 ブリンケン氏は1962年生まれで、ハーバード大学およびコロンビア大学法科大学院を卒業した。父親は資産家で、クリントン政権時代に駐ハンガリー大使を務めたドナルド・ブリンケン氏。両親ともにユダヤ系である。

 アントニー・ブリンケン氏はバイデン氏の選挙キャンペーンで外交問題の顧問を務めていた。だが、この指名は論功行賞的な人事ではない。ブリンケン氏はオバマ政権にいる間、アフガニスタン、パキスタン、イラン核プログラムに携わった。2017年にはニューヨーク・タイムズ紙上で、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)、エジプトを支持するトランプ大統領の外交姿勢を批判している。ブリンケン氏は中東に関与していた経験を有するので、中東諸国が彼を丸め込むのは難しいかもしれない。

トランプ政権との距離に反比例するバイデン当確への祝辞

 多くの中東諸国の国家元首は、11月7日にバイデン氏の当選確実が報じられるとすぐにバイデン・ハリスのコンビに祝辞を送っている。国営通信社で報じたり、ツイッターのアカウントで直接、祝辞を述べたり、方法はまちまちだが、大半の君主、大統領、首相が現地時間の11月7日中に祝意を表明した。

 即位したばかりのクウェートのナウワーフ首長とミシュアル皇太子をはじめ、カタル(以下、カタール)のタミーム首相、バハレーン(以下、バーレーン)のハマド国王とサルマーン皇太子、ハリーファ首相(ただし、同首相はその後1週間もたたずに米国の病院で死亡)、オマーンのハイサム国王、イラクのサーリフ大統領とカージミー首相らがここに名を連ねる。

 一方、11月8日朝にはUAEのムハンマド副大統領とUAEの実質的な統治者とされるアブダビのムハンマド皇太子が祝意を表明している。UAEの国家元首はハリーファ大統領だが、彼は病気療養中のため、近年ほとんど表に出てこないので、祝辞を送れなかったのは理解できる(なお、一部にはUAEの祝辞は7日中に出されたとの報道もあった)。イスラエルのネタニヤフ首相もこのタイミングで祝意を示した。