政府内での調整、国際レベルでの調整はどのようにしたのですか。

青井:この辺りは、経験がものを言いますね。英国政府を構成する省庁の目は上を向いており、まとまっています。コブラ委員会など政府全体レベルで定めた指針に関係省庁が従う。

 国際レベルでは、情報公開を戦略的コミュニケーションに利用しました。神経剤の特定とGRU関与という、秘密扱いにするのが常である諜報が得た情報を、米国や欧州諸国、国際機関と一致団結して一般に公開した。英国政府に対する英国民の信頼を維持するのに必要と、首相官邸が判断しての措置でした。

戦略的コミュニケーションの司令塔を作れ

日本が戦略的コミュニケーションの質を高めるために今すべきことは何でしょうか。

青井:省庁内および省庁間の連携を阻む壁を取り去ることです。先に触れた、韓国に対する輸出管理を厳格化する際、経済産業省は「安全保障を目的に輸出管理を適切に実施する」施策を取るのに、その大臣が徴用工の問題を持ち出してしまった。

 また、官邸・経産省が、外務省など関係省庁との間でコミュニケーション方法に関する綿密なすり合わせを行ったようには見えません。首相官邸と経産省が専ら先導したこの政策について、そのもたらすであろう効果や、韓国からの反応について、関係省庁と十分に考えたのかどうか。

 国家安全保障局のような政府横断の機構が、政策がもたらすコミュニケーション上のインパクトについてもう少し調整すべきではなかったでしょうか。

 解決策としては、例えば、各省庁に対する統括・指揮権限を持つ高いレベルに、戦略的コミュニケーションを審議し指針を与える組織を設置することが考えられます。国家安全保障会議をサポートする形で新たに置いてもよいし、国家安全保障局にコミュニケーションをつかさどるより強い権限を付加してもよいかもしれません。大事なのはコミュニケーションの内容とそれがもたらすインパクトについて、政府全体で大局的な判断ができることです。また、相応の指揮権が与えられることです。調整役では意味がありません。

 加えて、経験値を高めることが大切です。先ほど言及した対応を英国が取れたのは、9.11のテロ事件をきっかけに始まったアフガニスタンでの安定化作戦の過程で失敗も含めて経験を積み、それをノウハウとして蓄積し、またドクトリン(基本原則)などの形に概念化する努力をしたからです。

 まず、政府全体の体制とプロセス作りです。安定化は、軍事作戦だけでなく、開発支援、行政、政治支援を一緒に動かさなければならないので、特定の省庁だけでなく、政府全体で対応する体制を築きました。2010年には国家安全保障会議が設置され、政策・戦略レベルの意思決定を統合。作戦レベルでは政府横断の地方復興チームと軍のタスク・フォースの連携を実現しました。作戦から現場レベルでは、安定化ユニットという省庁横断の部署を設置しました。

 こういった調整の経験と体制は、危機の性質が変わっても受け継がれます。また、戦略的コミュニケーションが望む効果を発揮するためには、それまで広報部門が行っていた一方的な情報発信の繰り返しでは不十分で、作戦や援助といったアクションとメッセージをより強くリンクさせることが重要となることも学びました。

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