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 コール政権、そして多くの西ドイツ人たちは天文学的な額の資金を注ぎ込んで、生活水準さえ引き上げれば東西間のアイデンティティーも平準化されると考えた。しかしその考えは、甘かった。人はパンのみにて生くるものにあらず。西側は、旧東ドイツ人たちがいかに急激な変化を体験し、困難な適応を強いられ、心の傷を負ったかについて十分に配慮しなかった。効率を最優先し、感情への配慮を二の次にするのは、ドイツ人の国民性の1つでもある。つまり金についてばかり語り、心の統一をおろそかにしたことが、今日のアイデンティティーの亀裂につながった。旧西ドイツ人たちは、今ようやくそのことに気づきつつある。

ドイツ経済・独り勝ちの時代の終わり?

 経済の分野でも、ドイツの前途には注意信号がともっている。第2四半期のGDP成長率は、マイナス0.2%だった。マイナスのGDP成長率が2四半期連続とならなければ、景気後退(リセッション)とは定義されない。第3四半期のGDP成長率は、プラス0.1%だった。このためドイツのメディアは「ドイツはかろうじてリセッションを避けられた」と報じた。だが経済学者や投資アナリストの間では、「米中間、米欧間の貿易摩擦の影響で、この国の景気が大きく冷え込んでいることは間違いない」という意見が有力だ。

 IFO経済研究所が発表する景況指数も、今年10月には前年同期(102.6)から約8ポイント下がって94.6となった。ドイツ機械工業連盟(VDMA)によると、今年1~8月の機械メーカーの受注額は前年同期比で9%減った。

 一部の自動車メーカーでは、すでに昨年から業績が悪化し始めていた。BMWでは昨年の当期利益が前年比で16.9%減、ダイムラーでは同22%減となった。このため、両社とも配当の減額に追い込まれた。BMWが配当を減らしたのは、10年ぶりのことである。同社の減益傾向は今年も続いており、8月1日の発表によると、2019年上半期の当期利益は前年同期に比べて約半分に減った。

 このあおりを受けて、多くの自動車部品メーカーが従業員を削減する計画を発表している。中国の自動車市場で販売台数が減少傾向を見せていることも、ドイツ企業にとっては大きな不安の種だ。

 ドイツ政府は昨秋、2019年のGDP成長率を1.5%と予想していたが、今年夏には0.5%に引き下げた。国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しによると、これはイタリア(0.0%)に次いでユーロ圏で2番目に低い成長率だ。ユーロ圏平均(1.2%)の半分にも満たない。ドイツでは「この国は再び欧州の病人になるのか?」という声すら出ている。

 ドイツ人たちは2020年、東西統一から30年というもう1つの歴史的な区切りを迎える。だが彼らは、伝統的な二大政党の弱体化、アイデンティティーの亀裂、極右による暴力のエスカレート、景気の冷え込み、製造業・金融サービス業の変革の遅れ、米中に大きく水をあけられたデジタル化など様々な難題に取り組まなくてはならない。このため2020年の記念式典でも、祝賀気分はささやかなものにとどまるだろう。シャンパンに酔いしれている暇はない。