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 今年10月には散弾銃や爆薬で武装した極右テロリストが、ザクセン・アンハルト州ハレのユダヤ人礼拝施設(シナゴーグ)で多数の市民の殺害を図ったが、扉の錠を破ることができず侵入に失敗。代わりに通行人ら2人を射殺した。犯人の旧東ドイツ人は、ネット上にホロコースト(ナチスによるユダヤ人虐殺)が実際に起きたことを否定する声明を発表し、「今回の攻撃でユダヤ人を1人でも殺せれば成功だ」と語っていた。

 戦後ドイツで極右が多数のユダヤ人の殺害を図った事件は、例がない。この国では、極右によるテロが、イスラム過激派によるテロ並みに高い危険性を帯びてきたと言っても、過言ではない。

 これまでネオナチの暴力は、主にトルコ人やシリア人などイスラム教徒に対して向けられていた。その矛先がユダヤ人に向けられ始めたことは、極右の暴力の質が大きく変化したことを意味する。第2次世界大戦から74年たって、ユダヤ人が身の安全を心配しなくてはならない時代が再びやってきた。

 欧州では近年、フランスを中心に反ユダヤ主義が高まっており、イスラエルに移住したり、万一の事態に備えてイスラエルにアパートを買ったりする市民が現れている。かつての加害国であり、ナチスを批判する歴史教育に戦後力を入れてきたドイツで、今日のような事態が発生するとは、統一前には想像もできなかったことである。

 ドイツの大手メディア企業アクセル・シュプリンガーのマティアス・デップナーCEO(最高経営責任者)は、「私はドイツ人がナチス時代の犯罪から何かを学んだと考えていた。人間性が、狂気に対して勝ったと言いたかった。しかし、今の私はそう言えない。反ユダヤ主義は克服されていない。むしろ逆である」と述べ、現在のドイツの状況を強く批判している。

 ドイツのユダヤ人向け新聞「ユーディッシェ・アルゲマイネ」は、2018年12月にEU基本権保護局(FRA)が行ったアンケート結果を公表した。FRAによると、ドイツに住むユダヤ人の44%が、「この国がユダヤ人にとって安全だと感じられないので、他の国への移住を時々考えることがある」と答えた。

 欧州の反ユダヤ主義は、中東情勢ともリンクしている。11月にイスラエル国防軍がガザ地区のアパートを攻撃し、テロ民兵組織「イスラム聖戦機構」 の指揮官と妻を殺害した。これに対する報復として、パレスチナ側が約400発のミサイルをイスラエルに向けて発射したため、イスラエル側はガザ地区を空爆し、11月16日までに非戦闘員を含む35人が死亡している。欧州諸国では、イスラエルが取る対パレスチナ政策への批判が根強い。ガザ紛争のエスカレートとともに、ドイツなどで反ユダヤ主義がさらに高まる恐れもある。

 極右の暴力は旧西ドイツにも広がり、悪質化する傾向を見せている。今年6月2日にはヘッセン州カッセルのリュブケ区長(CDU所属)が、極右テロリストによって自宅で射殺された。リュブケ氏は、アンゲラ・メルケル首相の難民政策を支持していたために、極右から敵視されており、ネット上の「殺人リスト」に住所を公開されていた。第2次世界大戦後に、政治家が極右によって暗殺されたのは初めてだ。他にも緑の党の政治家や、難民支援に積極的な地方自治体の関係者らが極右から殺人予告を受けている。

 ドイツの政治家らは、「AfDは2015年の難民危機以降、ソーシャルメディアを通じて、排外的なメッセージを流し続けた。この言葉の暴力が、実際の暴力を助長している」と指摘する。これに対しAfDは、「極右の暴力がエスカレートするのは、我々の主張とは無関係だ」と反論している。

「新たな壁を崩せ」

 多くの政治家たちは、今日のドイツの状況を深刻に受け止めている。今年11月9日にベルリンで行われた壁崩壊に関する記念式典で、フランク=ヴァルター・シュタインマイヤー大統領 は「我々は、ドイツに新しい壁を築いてしまった。それは、不満と怒り、疎外と憎しみの壁だ。この壁は目に見えないが、ドイツを今も分断している。新たな壁を打ち崩せるのは、私たちだけだ。手をこまねいていないで、この壁を打ち崩そう」と聴衆に訴えた。彼の言葉には、ベルリンの壁崩壊という歴史の輝かしい1ページに、東西間のアイデンティティーの亀裂が暗い影を落としていることがはっきり表れている。

 メルケル首相はドイツの新聞が最近行ったインタビューの中で「私は以前、東西間の違いがもっと早く消滅すると考えていた。しかし今では、統一が完遂されるまでには50年もしくはそれ以上かかると考えている」という悲観的な見方を明らかにしている。