共和党の下院奪回がウクライナ援助に影響か

 ただし、米国からの潤沢なウクライナ支援がこれまでと同じように将来も続く保証はない。共和党には、対ウクライナ支援を増額するのに反対する議員がいる。下院は5月10日、ウクライナ支援を400億ドル(約6兆円)増額するための法案を可決した。賛成368票、反対57票。5月19日には上院が、賛成86票、反対11票で同法案を可決した。追加支援に反対したのは、上院・下院とも全て共和党の議員だった。

 中間選挙に向けた選挙戦で、一部の共和党議員たちは、ウクライナへの多額の支援を疑問視することで、有権者の支持を伸ばそうとした。例えば10月18日、共和党下院トップのケビン・マッカーシー院内総務は「我々が下院で過半数を獲得した場合、ウクライナへの支援に関して白紙の小切手を切ることはない。米国市民は、景気後退で苦しむ中、ウクライナへの潤沢な援助に反対するだろう」と発言している。マッカーシー院内総務は16年以来トランプ氏を支持している。

 やはりトランプ支持派であるマージョリー・テイラー・グリーン下院議員(共和党)も11月4日、アイオワ州で演説し「我々が下院で過半数を占めた場合、ウクライナにはもはや一銭も送らない」と述べた。これについて、ウクライナ支援に前向きなリズ・チェイニー氏は「ウクライナに対する支援をやめたら、プーチン大統領の思うつぼだ。1980年代にこんな人物が共和党にいたら、米国は東西冷戦で負けていただろう」と発言し、グリーン議員を批判している。

*=今回の中間選挙まで、共和党で下院議員を務めた。連邦議会襲撃をめぐるトランプ氏弾劾訴追決議に賛成したことで知られる

 共和党が下院で過半数を獲得したことで、バイデン大統領が進めるウクライナ支援に関する法案が、これまでほどスムーズには可決されなくなる可能性が高まった。

「トランプ氏はNATO脱退を考えた」

 万一、トランプ氏が大統領に返り咲いた場合、ウクライナと欧州にとって事態はさらに深刻になる。同氏は、対ウクライナ援助を大幅に減らす可能性が高い。同氏は現職だった頃から、「米国だけに過重な負担を強いている」として北大西洋条約機構(NATO)について懐疑的な姿勢を取っていた。特に、「防衛費を国内総生産(GDP)の最低2%に引き上げる」というNATOの取り決めをドイツなど多くの欧州諸国が守らなかったことについて、「ただ乗りだ」と批判した。

 2019年1月16日付の米ニューヨーク・タイムズは、「トランプ大統領は側近に対して、米国をNATOから脱退させるオプションを提案した」と伝えている。

 またトランプ政権で国家安全保障担当の大統領補佐官を務めたジョン・ボルトン氏も22年3月4日に行った講演で、「トランプ氏はNATO脱退を考えていたが実行しなかった。だが、もし同氏が20年の大統領選挙で勝っていたら、米国をNATOから脱退させていただろう。プーチン大統領は、トランプ氏が米国をNATOから脱退させるのを待ち望んでいたはずだ」と語っている。

 トランプ氏は、プーチン大統領寄りの発言をすることがある。プーチン大統領は2月22日、ドンバス地方のルガンスク・ドネツク両州がウクライナから独立するのを承認し、両地区にロシア軍を派遣するよう命じた。ドンバス地方には多くの親ロシア派が暮らす。トランプ氏はこの日、米国のあるラジオ番組の中で「プーチン大統領がこれらの地域の独立を認め、平和のために軍を送ったことは素晴らしい。天才的(genius)であり、賢い(savvy)決断だ」とたたえた。

 ウクライナ侵攻の前段階であるこれらの動きを、トランプ氏は前向きに評価したのだ。これは、バイデン大統領や欧州諸国がロシアによる両州の独立承認を強く非難したのとは真逆の態度である。

 米国の捜査当局は20年4月、「ロシアの諜報(ちょうほう)機関は、16年の米大統領選挙に介入した。トランプ氏が勝つよう、民主党のヒラリー・クリントン候補の信用を傷つける偽情報をソーシャルメディアで流布するなどした」と結論付けた。しかし当時トランプ氏は「プーチン大統領は、ロシアがこの選挙に介入したことはないと保証している。私は同氏の言葉を信じる」と述べ、プーチン大統領を弁護している。

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