ウクライナ支援の半分以上を米国が負担

 24年にトランプ氏が再選される可能性について欧州で懸念が高まっている理由の1つはウクライナ戦争への影響だ。ウクライナ軍の善戦は、米国の支援に負うところが多い。

 ウクライナ軍が当初の予想に反して、9カ月近くもロシア軍の攻撃を跳ね返し、へルソンやハルキウ周辺など重要な地域の奪回に成功した背景には、ウクライナ人の激しい抵抗精神だけでなく、米国をはじめとする友好国の強力な援助がある。

 ドイツのキール世界経済研究所(IfW)は、ロシアのウクライナ侵攻開始以降、「ウクライナ支援トラッカー」というウェブサイトで、各国が支出したウクライナへの支援額を公表している。40カ国の政府と欧州連合(EU)の援助機関が、今年1月24日(ロシアがウクライナに侵攻する1カ月前)から10月3日までにウクライナに対して行った軍事援助、経済援助、人道的援助の総額は約938億ユーロ(約13兆円)に達する。このうち、米国の援助額は約523億ユーロ(約8兆円)で、全体の55.7%を占める。EU加盟国・EU機関の援助額(約293億ユーロ)よりも79%多い。

 特に、武器・弾薬など米国による軍事援助額は、約276億ユーロ(4兆円)で、単独の援助国としては、第2位の英国(約37億ユーロ)の7.4倍、第3位のドイツ(約12億ユーロ)の23倍に達する。つまり欧州諸国のウクライナへの軍事援助額は、米国に大きく水をあけられている。次のグラフから、米国のウクライナ支援が、他国を寄せ付けない規模であることがお分かりいただけると思う。

米国がダントツ ●各国のウクライナ援助額(上位10カ国・機関を抜粋、2022年10月3日時点)
米国がダントツ ●各国のウクライナ援助額(上位10カ国・機関を抜粋、2022年10月3日時点)
出所:Kieler Institute for World Economy
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 ロシア軍が2月24日にウクライナ侵攻を開始したとき、多くの軍事専門家は「ロシア軍が短期間でウクライナの首都キーウ(キエフ)を占領する」と考えていた。ウラジーミル・プーチン大統領も、14年のクリミア半島制圧のときのような電撃作戦をもくろんでいた。西側に亡命したロシア軍兵士も「ウクライナ侵攻時、3日分の糧秣(りょうまつ)しか与えられていなかった」と証言している。

 しかし実際には、ロシア軍の戦車や装甲兵員輸送車は、米国が供与した携帯式対戦車ミサイル「ジャベリン」などによって次々に撃破された。ロシア軍はウクライナ上空の制空権の確保にも失敗。2月25日には、ロシア軍の2機のイリューシン76型輸送機が、キーウ近郊でウクライナ軍に撃墜された。これらの輸送機にはキーウを制圧する任務を帯びた空挺(くうてい)部隊の兵士数100人が乗っており、全員が死亡した。米NBCは2月27日、「ウクライナ軍がこれらの輸送機を撃墜できたのは、ロシア軍機の位置情報を米軍がウクライナ軍にリアルタイムで伝えているためだ」と報じている。

 このためプーチン大統領は、当初企図していた、迅速なキーウ占領に失敗した。もし米国が多数の兵器を送ったり、情報を共有したりしていなかったら、キーウはロシア軍に制圧され、ウクライナ戦争の経過は現在と全く違ったものになっていたかもしれない。

 11月9日にドイツ公共放送ARDが伝えたところによると、米国はウクライナに対し11月1日までに「ジャベリン」を約8500発、携帯式対空ミサイル「スティンガー」を約1400発、榴弾(りゅうだん)砲を約150門供与した。

 また米国は、480キロメートルの射程を持つ高機動ロケット砲システム「ハイマース」を、ウクライナ軍に20基供与した。さらに同国は9月18日、18基のハイマースを追加供与する方針を発表している。この多連装ロケットはロシア軍の戦闘部隊や兵站(へいたん)線に甚大な損害を与えている。

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