トランプ氏は大統領時代、NATO脱退を口にしていた(写真:AP/アフロ)
トランプ氏は大統領時代、NATO脱退を口にしていた(写真:AP/アフロ)

11月15日、ドナルド・トランプ前米大統領が、2024年の大統領選挙に立候補すると宣言した。トランプ氏が再選される可能性は低いが、万一実現すれば、対ウクライナ支援の削減につながる最悪のシナリオが想定される。欧州が防衛力強化を怠り、米国に依存してきたことのツケが回ってくる。

 「私は米国を偉大で栄光に満ちた国にするために、再び大統領選に出馬する」。ドナルド・トランプ氏は、米フロリダ州の邸宅マールアラーゴで、支持者たちに対して宣言した。

 ただし、欧米メディアによるこのニュースの扱いは小さい。11月8日に行われた中間選挙で、予想されていた共和党の地滑り的勝利が起こらなかったからだ。共和党は議会下院で過半数の議席を獲得したものの、上院で過半数を取ることには失敗した。

共和党の地滑り的勝利は起こらなかった

 共和党には「トランピスト」と呼ばれる人々がいる。20年の大統領選挙でのジョー・バイデン氏の勝利を疑問視し、「本当はトランプ氏が勝った」と主張する人々だ。根っからのトランプ支持者である。今回の中間選挙では、ペンシルベニア州やミシガン州などで「トランピスト」の候補者たちが落選の憂き目に遭った。

 「トランピスト」であることは、選挙での勝利を保証する錦の御旗ではなくなりつつある。昨年1月6日、トランプ支持者を含む暴徒が議会に乱入する前代未聞の事件が起き、下院の調査委員会は、トランプ氏がこの事件で演じた役割について調査を続けている。

 同委員会は「トランプ氏が、乱入事件が起きる直前に『選挙で不正が行われたためバイデン氏が勝った。真の勝者は私だ。議会へ行こう』と演説し、群衆が議会に乱入するのをそそのかした疑いがある」として、トランプ氏の証人喚問を要求している。同氏は「喚問は違法だ」と訴訟を起こして証言を拒絶している。トランプ氏は、今回の中間選挙でも「民主党が不正を行っている」と主張し続けたが、証拠を示そうとはしなかった。

 トランプ氏のこうした態度は、中間選挙で共和党にとって逆風となり、同党の圧勝を阻んだ。

 中間選挙に関する欧州メディアの論調には、共和党の大勝が実現しなかったことについて安堵が感じられる。トランプ氏が再選される可能性が低くなったからだ。ただしトランプ氏再選の可能性がゼロではないことについて、一抹の不安感も漂っている。

 例えばドイツの保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)のアンドレアス・ロス政治部長は11月10日の社説で、「共和党の地滑り的勝利を妨げたのはトランプ前大統領だ。その意味で、彼はいつもながらの奇矯な発言で、民主党に助け舟を出したことになる」と指摘。つまりトランプ氏は、共和党にとって逆風となったというのだ。

 しかしロス部長は、楽観主義を戒める。同氏は「バイデン大統領の人気は低い。さらに、多くの米国人の間で、議会制民主主義への失望が強まっている。今後2年の間にトランプ氏がこの不信感を利用して、共和党内の支持基盤を再び固める可能性がある。その意味で、トランプ氏が24年に再選される可能性は、ゼロではない。彼は共和党で人心を掌握する技にたけている」と警告する。

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