
中国共産党6中全会(第19期中央委員会第6回全体会議)が11月11日に終了した。「党の百年奮闘の重大な成果と歴史的経験に関する中共中央の決議」を通し、来年後半に第20回党大会を開催することを決定した。16日、「歴史決議」の全文が公表された。この決議は中国の今後の動向に、どういう影響を及ぼすのであろうか。この問いに答えるためには、まず歴史決議の持つ意味について考える必要がある。
「正しさ」を定める歴史への強いこだわり
中国共産党の歴史において、歴史決議を通したのは毛沢東と鄧小平だけである。習近平(シー・ジンピン)が同じように歴史決議を採択したことで、その党内の地位と権威が高まり、ひいては国民との関係において声望を高める効果は確かにあるだろう。習近平が自分の権力基盤を固め、来年の党大会の場で3選を確実にするために歴史決議を使ったという見方である。確かに、この側面はある。
しかし、11月16日の日本経済新聞朝刊は、北京駐在の羽田野主特派員の現地取材記事を掲載し、習近平指導部が新しい歴史決議を通す必要性につき、党内コンセンサスを作るのに苦労したことを伝えている。過去2つの歴史決議は、それまでの路線の全面的もしくは部分的な修正が主眼であった。現在は、基本的には鄧小平路線で進んでいるのであり、新たなものを作る必要はないという議論は党内において説得力を持つ。
同時に歴史決議は、党内の意思統一を図るというもう1つの役割を持っている。これに対しても、歴史決議でなくとも、習近平の重要講話あるいは中央委員会決定でやれるではなか、という反論は成り立つ。それでも習近平指導部は歴史決議を欲した。毛沢東や鄧小平に並びたいという願望だけではなく、そこに「歴史」そのものに対するこだわりを感じる。
そもそも中国社会が考える「歴史」と、今日の日本社会が考える「歴史」との間に大きな差がある。紀元前6~5世紀に生きた孔子は、歴史の中に自分の理念と価値観の根拠を求めた。司馬遷は、中国の歴史書の始まりといわれる『史記』を儒学の価値観に基づき記述した。つまり中国において伝統的な歴史とは、正しいか正しくないかの判断基準を示すものであり、歴史は予め正しいとされる価値観を前提に記載するのなのだ。
中国共産党は、自分たちの路線や方向が正しいことを証明するのが歴史の役割と考えている。歴史決議の本質は、歴史決議を主導した指導者が進める路線が正しいことを証明するためのものなのだ。少なくとも習近平はそう考え、歴史決議を欲した。そして、歴史の大きな流れと新しい時代の要請に応える「正しい」指導思想として「習近平思想」を書き記るすことを何よりも望んだとみてよい。
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