
ドナルド・トランプ氏はいまだに米大統領選の敗北を認めようとしない。されば、ジョー・バイデン次期大統領の政権移行チームの活動も全く本格化していない。この異常事態に、チャック・ヘーゲル元国防長官ら米政府の元高官ら約160人は先週、「国家の安全に深刻なリスクをもたらす」として、バイデン氏の勝利を早期に認定するようGSA(連邦政府一般調達局)に求めたという。
GSAとは米連邦政府の施設管理や調達を担当する職員1万人強からなる地味な官庁。この役所が米大統領交代の際に重要な役割を果たす理由が1つだけある。現行の政権交代手続きを定めた「1963年大統領政権移行法」により、政権移行のための「オフィス、機材、人件費」を含むスペースや費用などを、あらかじめ議会が認める範囲内で、新政権の政権移行チームに提供する役割がGSAにはあるからだ。
ところが、トランプ政権の政治任用者であるGSA長官は「バイデン候補の勝利」をいまだ認定しない。「政権移行プロセス」の開始も宣言していない。そのため、バイデン次期大統領に対する国家安全保障ブリーフィングはもちろんのこと、恐らく数百人はいるであろうバイデン政権移行チームの専門家がそれぞれ関係省庁に接触して必要な情報を求めることも含め、来年1月20日にバイデン政権が発足するための準備はほとんど進んでいないのだ。
トランプ政権の首席補佐官だったジョン・ケリー氏は先週、「国土安全保障省、国防総省、各情報機関、保健福祉省」などに関し、「大統領交代に不可欠である死活的情報」を政権移行チームと共有しないことは、「米国民に破滅的な結果」をもたらすと警告した。
だが、政権交代といえば首相と閣僚、副大臣などの交代ぐらいしか思い付かない日本人から見ると、どうもピンと来ない。そこで今回は、米国の「政権移行」について解説しよう。
1992年の政権移行チーム
筆者が政権移行チームと初めて接触したのは、米ワシントンの日本大使館に勤務していた時代。1992年に当選した「クリントン・ゴア」チームだった。同チームで安全保障を担当した親しい友人から突然電話があった。「日本が購入を予定している米国製兵器の購入計画は政権交代で変更されるのか」と突然問われ、「変更ない」と答えたら、後で感謝された。政権移行チームはかくも細かい極秘事項まで議論するのかと驚いた。あの記憶は今も鮮明だ。
政権交代は民族大移動
米国に「高級官僚」という言葉はない。米連邦政府には現在、軍人などを除き約200万人の公務員がいる。そのうち約4000人が政治任用職だ。さらに、閣僚以下、各省局長級以上の約1200人については上院の承認が必要。よって、米国の公務員は全員「低級官僚」である。日本のように、国家公務員試験一種合格者が、役所内の人事だけで、局長級以上のポストに就くことなど、米国ではあり得ない。もっとも、日本も変わりつつあるが……。
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