カルロス・ゴーン日産自動車元会長の逃亡先であるレバノンが窮地に陥っている。テレビタレント出身の大臣がイエメンのフーシ派を擁護する発言をしたためだ。サウジアラビアを中心とする湾岸諸国はイエメン正統政府を支援しており、同政府を駆逐したフーシ派と対立している。激怒したサウジは駐レバノン大使を召還するとともに、レバノンからの輸入も全面停止した。

サウジアラビアとの友好を重視し、クルダーヒー情報相に反発するレバノンの人々(写真:AP/アフロ)
サウジアラビアとの友好を重視し、クルダーヒー情報相に反発するレバノンの人々(写真:AP/アフロ)

 レバノンが今、極めて危険な状態にある。もともと悪かった財政状況が、新型コロナウイルス感染拡大による経済の停滞や、物流の中心であるベイルート港の爆発事故などでますます悪化した。レバノンは2020年3月、償還期限を迎える12億ドルの外貨建て国債の支払いを延期すると発表している。いわゆるデフォルトである。また、今年10月には燃料不足で全土が停電する事態に陥った。すぐに復旧したが、抜本的に解決したわけではない。

 ただでさえひどい状況に追い打ちをかけたのが、ジョージ・クルダーヒー情報相の舌禍事件である。事の発端は、10月26日、カタル(以下、カタール)のジャジーラ放送(以下、アル・ジャジーラ放送)が運営する「国民の議会(Barlamān al-Sha‘b)」という番組(デジタル版)が同情報相の発言を流したことだった。クルダーヒー情報相は、イエメン戦争はばかげた戦争であり、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)がイエメンに対し何年も不当な軍事介入を行っており、フーシー派(以下、フーシ派)はそうした攻撃に対して自衛しているだけで、誰も傷つけていないと主張したのだ。

 この発言が、サウジアラビアを筆頭とする湾岸諸国を激怒させてしまった。フーシ派は、シーア派の少数派「ザイド派」を中心とする勢力で、イエメン北部を拠点とする。2014年に事実上のクーデターを起こし、イエメンの正統政府を駆逐して、首都サナアを占拠してしまった。その正統政府から救援要請を受け、2015年に軍事介入したのがサウジアラビアやUAEを中心とするアラブ・イスラーム(以下、イスラム)有志連合であった。

怒り心頭のサウジアラビア

 有志連合側からみれば、悪いのは正統政府を追い出したフーシ派と彼らを支援するイランであった。したがって、クルダーヒー情報相の発言は受け入れ難く、彼らが激怒するのは当然であろう。

 実際、サウジアラビアはただちに反応。駐リヤード(以下、リヤド)のレバノン大使を招致して抗議しただけでなく、同大使に48時間以内に国外退去するよう命じた。また駐ベイルートのサウジアラビア大使も召還したのである。

 さらにサウジアラビアはレバノンからの輸入も全面的に停止してしまった。サウジアラビアだけではない。バハレーン(以下、バーレーン)やクウェートもそれに追従。UAEは全外交官のみならず、レバノンに在住するUAE人をすべてレバノンから引き揚げさせた。

 さらに、サウジアラビアなどが加盟している湾岸協力会議(GCC)も公式に非難声明を出した。GCCのメンバーであるカタールも、具体的な措置を取ってはいないものの、レバノンを批判する声明を出している。

 当然、フーシ派と戦っているイエメン正統政府もクルダーヒー情報相を激しく非難した。今のところGCC加盟6カ国の中でレバノンを直接非難していないのはオマーンだけである。

続きを読む 2/3 レバノンをがんじがらめにする宗教と政治

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