北朝鮮は10月10日、朝鮮労働党創立75周年を記念する軍事パレードを実施した(2020年10月10日)(提供:KCNA/UPI/アフロ)

 10月10日の午前0時から始まった朝鮮労働党創立75周年記念閲兵式(パレード)は、その日の午後7時になって報道された。朝鮮労働党創立記念閲兵式は1995年に始まりおよそ5年ごとに実施されてきた。実況中継ではなく録画方式の閲兵式報道は、2018年以来、3回目である。

 この閲兵式について、メディアは新型ミサイルばかりに注目したようであるが、あまり驚くようなものではなかった。新型ミサイルが出てくることは、これまでの北朝鮮の報道からも事前に予想されていたことだ。しかも、「北極星4型S(ㅅ)」を「北極星4型A」と誤報するメディアもあったぐらいで、かなり慌てていたようである。

 この閲兵式では今まで明らかにされていなかった部隊が数多く登場した。朝鮮中央放送のナレーションによると、53の徒歩縦隊と22の機械化部隊縦隊が参加したという。ナレーションだけでも、海上狙撃兵や空中狙撃兵、化学兵部隊、電子かく乱作戦部隊(サイバー部隊)など、それまで見たことがない部隊が次々と現れた。その1つにキム・グァンヒョン中将が率いる社会安全軍武装機動部隊があった。

人民保安省から社会安全省へと改編

 社会安全軍そのものの存在はこれまでの報道でも知られてきたが、閲兵式では初めて姿を現した。これは朝鮮人民内務軍が名称変更したものである。朝鮮人民内務軍は北朝鮮の治安組織に属する準軍事組織であり、国境や軍事境界線などに展開している。もともとは、人民警備隊という名称で、朝鮮人民軍と並ぶ「2大軍事組織」と呼ばれていた。この人民警備隊が朝鮮人民内務軍と改称し、それが再び社会安全軍と改称したのである。

 なぜ名称変更したのかというと、朝鮮人民内務軍を管轄する人民保安省(日本の警察庁に該当)が社会安全省に改称したからである。朝鮮人民内務軍が北朝鮮の報道に最後に登場したのは、『労働新聞』2020年5月1日付の記事であった。人民保安省が北朝鮮の報道に最後に登場したのは、『労働新聞』2020年5月24日付の記事であった。それは、5月23日に開催された朝鮮労働党中央軍事委員会第7期第4回拡大会議に関する報道である。

 「朝鮮労働党が核抑止力の強化を機関決定」の回で論じたように、5月23日に同中央軍事委員会拡大会議では、「新しい部隊を組織、編成して威嚇的な外部勢力に対する軍事的抑止能力をさらに完備する」ことが議論された。実は、これを報じる記事の最後の方に「安全(治安)機関の使命と任務にふさわしく軍事指揮体系を改編することに関する命令書」に金正恩が署名したことも報じられていたので、軍隊だけでなく、治安機関も再編成することが分かっていた。それが実行されたことが分かったのは、意外とすぐであった。

 6月2日に朝鮮海外同胞援護委員会のウェブサイトである「柳京」が記事で、人民保安省ではなく社会安全省と報じた。人民保安省は、以前は社会安全部であったため、社会安全省は人民保安省が改称したものであることは容易に推測できた。さらに、『労働新聞』2020年7月25日付の記事が「社会安全軍チェ・グァンユン所属部隊」に言及した。チェ・グァンユン所属部隊は、『労働新聞』2019年5月30日の記事で朝鮮人民内務軍の部隊として出てきたので、朝鮮人民内務軍と社会安全軍が同じものであることが分かる。

 ただし、閲兵式で出てきた武装機動部隊は同定される既存の部隊が見当たらない。新設だとも考えられる。閲兵式で出てきた黒ずくめの装備を見ると、日本のSAT(特殊部隊)や米国のSWAT(特殊急襲部隊)のような治安特殊部隊のようである。治安強化のために、重犯罪、特にテロ対策に力を入れていることを示しているのであろう。

続きを読む 2/2 閲兵式の金正恩の演説から分かる米大統領選への見方

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り1788文字 / 全文3326文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

オリジナル動画が見放題、ウェビナー参加し放題

日経ビジネス最新号、9年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「世界展望~プロの目」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。