
11月初め、タイの首都バンコクに東アジア諸国の首脳が集まった。一部報道は、米国のドナルド・トランプ大統領の東アジアサミットへの欠席に注目していたが、トランプ大統領の多国間外交軽視は今に始まったことではない。
米国のアジア政策として興味深いのは、国務省が東アジアサミットと同日に「自由で開かれたインド太平洋―共有されたビジョンの前進」と題する報告書を発出したことである。米中対立が激化する中で、各国の政策当事者や研究者は、米中を含む広大な地域概念としてインド太平洋に注目してきた。
米国政府のインド太平洋戦略としては、今年6月1日に国防総省が発出した報告書「インド太平洋戦略レポート―備え、パートナーシップとネットワーク化された地域の促進」がある。今回の国務省の報告書は、国防総省の報告書を踏まえたものというが、両者を比べてみると、米国政府の中に米中対立に関する2つの異なる考え方があることが浮かび上がる。
対決色を前面に出した国防総省
全体で55ページからなる国防総省の報告書では、序論に続いて、インド太平洋の戦略状況についての分析があり、4つz脅威を具体的に検討している。脅威の筆頭に名指ししているのは「現状打破国家としての中華人民共和国」である。特に、新疆地域(国防総省も国務省も新疆ウイグル自治区とは表記していない)のムスリムに対する扱い、中国国内外でのサイバー犯罪、南シナ海の軍事化、台湾近郊での中国人民解放軍空軍による警戒活動の増加などを明記している。さらに、中国の経済活動についても、債務の持続不可能性などに懸念を示している。
なお、その他3つの脅威としては、ロシア、北朝鮮、そしてテロリズムのような脱国家的な課題を列挙している。
その後、こうした脅威について、米国を中心に作られてきたハブ・アンド・スポークス型の安全保障アーキテクチャーではなく、米国の同盟国やパートナー同士の連携を強調したネットワーク型の安全保障アーキテクチャーの重要性を強調している。
競争を重視する国務省
一方、全体で30ページほどの国務省の報告書は、若干趣の異なる国際情勢認識を示している。いわく、「米国とそのパートナーにとっての最大の挑戦は、将来の秩序をめぐる自由な世界観と抑圧的な世界観との間の競争の増大にある。権威主義的で現状打破的な国家は、他者の利益を犠牲にして偏狭な利益を追求している」という。ここまでは国防総省の報告書と大きな違いはないが、ここから先は報告書の論調が変わってくる。
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