進む開放、ヒジャブを被らなくても罰せられない
さて、それ以外の印象というと、文化や生活面でサウジアラビアの「開放政策」が進んでいるのがはっきりと分かった。数年前に解禁された女性の自動車運転はまだまだ見かけることが少ないものの、同様に解禁された映画館に関しては、ジェッダのあちこちには映画館(シネコン)がつくられていた。
しかし、それより何より驚かされたのは、まだまだ数は少ないものの、髪の毛を隠すヒジャブを外して街中やショッピングモールの中を歩く女性が散見されたことであった。もちろん、ヒジャブを被るだけでなく、全身を黒い布ですっぽり隠したり、ベールで顔を隠したりする女性たちが今でも圧倒的に多い。だが、重要なのは数ではなく、ヒジャブを被らなくても罰せられないことのほうだ。
筆者がサウジアラビアに住んでいた30年以上前は、女性がヒジャブを被らずに道を歩いていれば、宗教警察に拘束されたり、鞭(むち)で引っぱたかれたりすることが珍しくなかった。それを考えれば、文字どおり、隔世の感がある。
サウジアラビアと対立する隣国イランで、若い女性がヒジャブの被り方が悪いといって当局に拘束され、死亡した。この事件をきっかけに、イランでは大規模な暴動が発生している。これを見れば、サウジアラビアの様子に隔世の感を抱くのはなおさらだろう。宗教警察は、3年前に首都リヤード(以下、リヤド)を訪問したときにも、まったく表に出てこなくなっていた。今回、それを改めて確認できたかたちとなる。
サウジでも人気の日本アニメ
また、個人的にはジェッダで「アキバ・カフェ」なるところに行けたのが面白かった。サウジアラビアでも日本のアニメやマンガは大人気で、この種のオタクカフェがジェッダだけでも数軒あると聞いた。

筆者が帰国した後のことだが、10月28日から3日間、「サウジアニメエキスポ」なる催しが実施された。「リヤド・シーズン」という政府主催の大きな文化イベントの一環である。場所は、同イベントのメイン会場である「ブールヴァール・リヤド・シティー」だった。
日本以外では初公開という、高さ6メートルの新世紀エヴァンゲリオンの巨大フィギュアや、進撃の巨人、名探偵コナンのフィギュアが陳列され、人気を集めたという。
ジェッダで一番大きな書店にも日本のマンガコーナーがあり、鬼滅の刃や呪術廻戦などのマンガがずらっと並んでいた。解禁されたばかりのシネコンでは、日本の人気マンガの第1話のみをアラビア語に訳した冊子が無料で配られていた。
ちょうど同じ頃、やはり同じ「リヤド・シーズン」の枠組みで「恐怖の週末」というイベントが行われ、ゾンビやゴースト、ミイラ男などに仮装した多くのサウジ人が「ブールヴァール・リヤド・シティー」に繰り出した。これは、微妙に時期がずれているものの、明らかにハロウィーンのお祭りである。イスラムを国教とするサウジアラビアは、ハロウィーンのお祭りを祝うことを異教の習慣として長く禁止してきた。それが昨年から、政府主催のイベントで、事実上のハロウィーンの仮装が行われるようになっていたのだ。
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