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インドを巻き込み、中国の優越をそぐ

でも、ロシアにとって良いことばかりではないのではないですか。例えば、ロシアと協力する中国側の意図として、インドに対するヘッジが考えられます。仮に中国とインドが武力紛争に陥れば、ロシアはそれに巻き込まれる恐れが生じます。

小泉:おっしゃる通り、私も中ロの軍事協力においてインドがカギだと見ています。ただし、その意味は異なります。ロシアは、インドを参加させることで、中国のプレゼンスが大きくなりすぎるのを抑えたいのです。

 インドを巻き込もうとする動きの一端が見えてきています。例えば、先ほど言及したように、演習「ボストーク2018」に、中国を初めて招きました。さらに、「ツェントル2019」ではインドとパキスタンを加えたのです。

 これには2つの意図が垣間見えます。1つはインドを巻き込むこと。もう1つは米国を刺激しないことです。ロシア、中国、インド、パキスタンはいずれも上海協力機構のメンバーです。よって、「米国に敵対するグループ作りではなく、ユーラシア大陸全体を対象にした安全保障のフレームワークだ」という説明が可能になります。

 またロシアは、9月に主催した東方経済フォーラムのメインゲストとしてインドのナレンドラ・モディ首相を招き厚遇しました。インドの首相がロシアの極東地域を訪れたのはこれが初めてのこと。この場で両国は様々な協力に調印しました。例えば、インドがロシアに対し10億ドルの信用供与枠を設定。インドはロシア製兵器の新たな購入を決めました。

インドはロシア製の兵器をたくさん導入していますね。戦闘機に潜水艦……

小泉:はい。戦闘機は、インド専用機としてロシアに開発させた「Su-30MKI」を導入しています。第4世代戦闘機の中でも最新鋭のモデルです。しかも、これはロシア空軍が利用するSu-30のデグレード版ではありません。むしろアップグレード版と言える性能を備えています。さらに、製造メーカーであるスホイはこれを、インド国内に設置した生産ラインで生産します。

 ちなみにインド外務省のロシア課長は軍人です。つまりインドにとってロシアは、非同盟政策を貫くための武器調達先なのです。ロシアは武器供給を通じて、インドの独立と安全を守る役割を果たしている。インドは西側からもロシアからも武器を調達しなければならないのです。

 ロシアの視点に立つと、2018年は中国との関係強化をアピールした年、2019年はインドとの距離を近づける年です。

 その一方で、ロシアはインドをけん制する動きも見せています。2010年代の半ばからパキスタンに急速に接近し始めました。国防大臣が相互訪問したり、ロシアが軍艦をパキスタンの港に寄港させたり。わずかではありますがロシアはパキスタンに兵器も売却しています。さらには、カシミール地方でパキスタンと合同軍事演習を行ってもいます。

それは、インドを刺激するのではないですか。カシミール地方では、インド、パキスタン、中国が三つどもえになって領土紛争を繰り広げています。

小泉:ロシアの一連の行動はインドへの当てつけなのだと思います。「ロシアをおろそかにして、米国から武器を購入するなどしていると、(インドの宿敵である)パキスタンにロシアは協力するぞ」というメッセージを送っているのです。

自由で開かれたインド・太平洋戦略を過大評価してはならない

インドは、日米からも、ロシアからも腕を引っ張られているのですね。取り合いの様相を呈している。

 日米が「自由で開かれたインド・太平洋戦略」を提唱する中、インドはこれにポジティブであるかのように喧伝(けんでん)されています。しかし、そんな単純な話ではないのですね。

小泉:非同盟中立がインドの本質です。米国側に接近することはあっても、完全に寄ることはありません。もちろん、ロシア側にも同様の態度です。

 自由で開かれたインド・太平洋戦略は、そのように振れるインドを日米の側にとどめておくための戦略と解すべきでしょう。