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「日ロが協力して中国をけん制」論に怒ったロシアのラブロフ外相

日本の一部に「ロシアと組んで中国がもたらすリスクをヘッジしよう」という考えがあります。中国はロシアにとっても脅威なので日ロは手を結ぶことができる、というもの。人口密度が非常に低いロシア極東に大量の中国人が流入し“中国化”する事態をロシアが懸念している、というのがこの考えの背景にあります。19世紀末~20世紀半ばにかけて欧米列強が中国を侵食する過程で、帝政ロシアが沿海州を奪いました。中国はこれを取り戻そうとしている、と見る向きもあります。

小泉:そうですね。しかし、ロシアが中国を恐れるレベルは、日本が抱く脅威の比ではありません。日本は中国との間に海を抱えています。経済力も、中国にGDPで追い抜かれたとはいえ、まだ世界3位の規模がある。一方のロシアは中国とは地続きです。そのGDPは韓国並みでしかありません。つい数十年前まで核戦争をしたかもしれない相手です。怒らせたくはありません。よってロシアは、日本と組むより中国と組む方を選ぶでしょう。中国を、ロシアにとって安全な存在にしたいのです。

 日本の政治家が「日ロ平和条約を結べば、中国をけん制できる」と発言したことがあります。これに対し、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は「けしからん。腹立たしい発言だ」と怒りをあらわにしました。

 ロシアは自国が日米の側に寄っても、米国がロシアを対等な存在として扱うことはない、日本のように緊密な同盟国として遇することはない、と見切っているのです。

 冷戦終結後、ロシアは西側に対し融和的な態度を示しました。しかし、彼らの目から見ると、これに対して西側はNATOの東方拡大*で応じた。ロシアの縄張りに手を突っ込んできたわけです。さらに、人権意識に乏しく、軍事力で周辺国を圧倒する後れた国として接した。大国意識が強いロシアにとって、これは屈辱的なことでした。このため、欧州で起きたのと同様の事態が、極東の地で再び起こることを懸念するのです。

*:冷戦終結後、ソ連に属していたバルト3国や、ポーランドなどの東欧諸国がNATOに加盟したことを指す

 ロシアの洞察は適切です。日米はロシアを真のパートナーとはみなさないでしょう。我々が欧州でまいた種が、ロシアの不信感を強め、「日米と共に中国をけん制するという選択肢」を選ばせないようにしているのです。

 中ロが軍事協力を深める事態を、米国は以前から「悪夢」と認識してきました。ニクソン政権で外交を担ったヘンリー・キッシンジャー氏は「クリミア併合をめぐって締め上げすぎると、ロシアは中国につくぞ」と懸念を示していました。今はまさに、この懸念が現実のものとなりつつあるのかもしれません。もしくは、「実現しつつあるぞ」というメッセージをロシアが米国に送っているのかもしれない。

共に権威主義を頂く中国とロシア

 ただし、ロシアは中国の完全なジュニアパートナーに甘んじるのをよしとはしないでしょう。中国はロシアの感情を害さないよう、この点をうまくこなしています。

 米国とは異なり、「民主化せよ」などロシアの内政に口出しすることはありません。そもそも中国自身がそんなことを言えた義理ではありませんし。さらに、指導者が抱く素の国家観が似ている部分もあります。どちらも「この大国を統治するためには権威主義的な手法しかない」と考えている。この点は、ロシアと中国の関係が米ロ関係と大きく異なるところです。

 旧ソ連を構成していた中央アジア諸国に、中国が一帯一路構想を振りかざして影響力を行使するのは、確かにロシアにとって面白くないでしょう。しかし、中国はこの地域の民主化を図るわけでもないし、人民解放軍が基地を置くわけでもありません。ロシアにとって「決定的に受け入れがたい」というほどではないのです。