中国不動産大手・恒大集団の債務危機が金融危機につながるのではとの懸念が広がる。だが、その可能性は小さい。中国政府の意図は不健全企業の淘汰だからだ。ただし、不動産投資の減退は7~9月期のGDPを下押しし、2022年の消費の足まで引っ張る可能性がある。不動産がもたらす貧富の格差は中国国民の大きな関心事で、不動産税の導入を推す声は8割にのぼる。キヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之研究主幹に聞いた。
(聞き手:森 永輔)

キヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之研究主幹(以下、瀬口):今回は、中国の2021年7~9月期の経済動向と、不動産大手・中国恒大集団の問題が及ぼす影響についてお話しします。
実質GDP(国内総生産)成長率は前年同期比4.9%増。直前の予想は同5%増だったので、ほぼ想定通りの数字だったといえます。

キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 1982年東京大学経済学部を卒業した後、日本銀行に入行。政策委員会室企画役、米国ランド研究所への派遣を経て、2006年北京事務所長に。2008年に国際局企画役に就任。2009年から現職。(写真:加藤 康)
この数字を急減速とする見方があります。同1~3月期が18.3%増、4~6月期が7.9%増だったのと比較してのことです。この見方は誤りといえます。いずれの時期も、2020年の各期の“ウラ”を反映したものだからです。
2020年1~3月期が6.8%減。4~6月期が3.2%増と急速に回復しました。そのため、前年同月比でみると、今年の数字が期ごとに減速するように見えるだけです。2019年のそれぞれの時期からの2年平均の伸び率を見ると1~3月期が5.0%増、4~6月期が5.5%増、7~9月期が4.9%と安定的に推移しています。
投資の寄与度が0%というレア事態
外需や消費、投資といった項目別に分けてみると、どうでしたか。
瀬口:GDP成長率4.9%増への寄与度をみると、外需が1.1%、投資が0%、消費が3.8%という具合でした。
外需は予想以上に大きく寄与しました。新型コロナ禍から抜け出たことで国内経済が回復し、それに伴い輸入が拡大しました。しかし、それ以上に輸出が伸びました。まだ新型コロナ禍から抜け出られず生産が滞っている諸外国から委託されて中国企業が生産を引き受けている。この代替生産が依然として続いているためです。
一方、投資はかなり弱い状態でした。寄与度が0%というのは、中国では極めて珍しいことです。データが公表されている2015年以降で寄与度がプラスにならなかったのは、新型コロナ感染症の拡大でダメージを受けた2020年1~3月期(GDP伸び率への寄与度1.4%減)しかありません。
ただし、中国政府はこの事態を冷静に受け止めています。成長率を重視していた2016年までなら、公共投資によってインフラ建設を拡大し、景気下支えに走ったでしょう。しかし、2017年の第19回党大会で、国家の経済政策の主要目標を量(成長率)の拡大から質の向上に転換しました。この新たな方針を揺らぐことなく取り続けています。
投資は製造業による設備投資、不動産投資、インフラ投資の3つに分けられます。全体の約3分の2を占める設備投資は堅調でした。設備の稼働率は通常75%前後。これが昨年の第4四半期以降77~78%で推移しており、これほどの高水準で高止まり状態を維持することは、この統計が公表され始めた2013年以降一度もありません。これが投資意欲を押し上げているのです。
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