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トルコから攻撃を受け、行き場を失ったクルド人(写真:ロイター/アフロ)

 10月20日、日本国民の大多数がラグビーワールドカップ準々決勝の対南アフリカ戦に固唾をのんでいた頃、トルコ・シリア国境のシリア側クルド地域では、中東アラブ諸国のみならず、米国と同盟関係にある全ての国にとって容認し難い異常事態が進行していた。トランプ政権が10月7日、シリア北東部に駐留する米軍部隊の撤退開始を決定したのを受け、トルコ軍が9日、同地域のシリア系クルド人部隊に対し掃討作戦を開始したからだ。

 シリア系クルド人部隊といえば、イスラム国(IS)掃討作戦で最も勇敢に戦った最強武装組織。一説には、対IS作戦で1万人以上もの戦死者を出したといわれる。米国にとっては、シリアで活動するこの「同盟軍」がなければ、昨年末のISせん滅宣言など実現不可能だっただろう。ところが、トランプ政権は突然、米軍の撤退を発表し、このシリア・クルド系勢力を事実上「見捨ててしまった」のだ。対米同盟の信頼性そのものが問われる大失態である。

 その後トルコは米国の要請を受け17日から軍事作戦を一時停止したが、22日にはエルドアン大統領がロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談し、トルコ、ロシア、アサド政権がクルド勢力を国境地帯から排除することで合意したという。米国は数百人の部隊を残留させると発表したものの、既にシリア情勢は「米国抜き」で動き始めた。ドナルド・トランプ大統領の軽率な撤退決定により、今後同地域でのトルコ、ロシア、イランの影響力は一層拡大するだろう。

共和党上院院内総務も批判した在シリア米軍撤退の愚

 これには共和党指導部も黙ってはいなかった。米ケンタッキー州選出の共和党議員、ミッチ・マコーネル上院院内総務は10月19日付のワシントン・ポスト紙に、「トランプ政権による在シリア米軍撤退は深刻なる失敗」と題する小論を寄稿。「終わりなき戦争を終結させるというレトリックだけで戦争は終わらない。戦争には勝利か敗北しかないからだ」として、トランプ政権の対シリア政策を厳しく糾弾している。

 マコーネル院内総務の論点は明快だ。トランプ政権は「終わりなき戦争を終結させる」というが、今のシリアで戦争を単に「終結」させようとすれば、それは勝利ではなく敗北を意味するだけだろう。戦争終結そのものを政策目的に掲げること自体が間違いである。同氏の主張は内容的には当たり前かもしれないが、こうしたまともな議論が今の上院共和党執行部から出たこと自体に大きな意味があると筆者は見る。

 不思議なことに、似たようなレトリックは今の日本でも健在だ。その典型例が毎年8月15日の「終戦」記念日である。この日、日本は政府、国民、マスメディアを問わず、誰も「敗戦」を口にしない。マコーネル院内総務が指摘した通り、「戦争は単に終結するのではなく、勝つか負けるかのいずれか」であるにもかかわらず、だ。もしかしたら、トランプ氏の本音は、図らずも、戦後日本の「平和主義」的発想に近いのかもしれない。