新たな離脱協定がまとまり前に進み始めた英国のEU離脱が再び岩礁に乗り上げたように見える。新離脱協定案の採決が延期されることになった。だが、欧州情勢に詳しい慶応義塾大学の庄司克宏教授は「合意なき離脱がなくなったことで、新離脱協定案に賛成する議員が出てくる。10月末が無理でも11月中の離脱が現実に近づいている」と見る。(聞き手 森 永輔)

新たな離脱協定がまとまり前に進み始めた英国のEU(欧州連合)離脱が再び岩礁に乗り上げたように見えます。英議会下院が10月19日にレトウィン動議を可決。これにより、ボリス・ジョンソン首相がEUとまとめた新離脱協定案の採決は延期。その結果、9月に下院が可決していたベン法にのっとって、同首相はEUに対し3度目の離脱を要請するはめに陥りました。
庄司:レトウィン動議は、保守党を除名されて無所属となったオリバー・レトウィン議員が出した動議。ジョンソン首相がまとめた新離脱協定を施行するのに必要な関連法が整備されるまで、新離脱協定案の採決を延期するとの内容です。賛成322、反対306で可決されました。

慶応義塾大学大学院法務研究科教授、ジャン・モネEU研究センター所長。1957年生まれ。慶応義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。専門はEUの法制度と政策。主な著書に『欧州連合』『欧州ポピュリズム』『ブレグジット・パラドクス』がある。(写真:的野弘路)
仮に下院が新離脱協定案を承認した後、関連法が10月31日までに成立しなければ、合意なき離脱になりかねません。同議員は「合意なき離脱をしてはならない」を信条としており、その信念に従って提案したのです。
ベン法は、労働党のヒラリー・ベン議員が提案したもので、EUとの離脱協定案を議会が10月19日までに承認しなかった場合、離脱期限を2020年1月31日まで延期するようEUに求めることを首相に義務付けるものです。
これらの動議と法律により、関連法が整わないため10月31日に合意なき離脱を迎える事態を確実に回避できることになりました。
しかし、この仕組みだと、新離脱協定案を10月31日までに採決することができず、この日に合意なき離脱となる可能性があるのではないですか。政府が提案する関連法案に対して反対派が修正案を出し、その議論に時間を要する恐れがあります。そうなると、「合意なき離脱を避ける」というレトウィン議員らの狙いと本末転倒な結果になってしまいます。
11月中の離脱実現が見えた
庄司:レトウィン議員らが想定しているのは、(1)20年1月31日まで離脱期限は延期、(2)それまでに関連法を成立させるとともに新離脱協定案を承認する、というシナリオです。
(1)についてはEUの承認が必要です。EUはこれを認めるでしょう。3度目の延期ですね。
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