またEUが今年から本腰を入れて取り組む水素エネルギーの実用化は、リフキン氏が2002年に『水素エコノミー』という著書の中で提唱したものだ。彼は欧州委員会に対して20年前から水素エネルギーの実用化について提言してきた。気候変動問題への関心が高まりつつある今になって、EUという機関車は彼が敷いた線路の上をようやく進み始めたのだ。つまりEUが現在進めている脱炭素化プロジェクトにおいて、リフキン氏が過去20年間に行った提言は重要な役割を果たしている。

 日本のエネルギー政策の脱炭素化は、欧州ほど進んでいない。資源エネルギー庁によると、2017年の日本の電源構成は、天然ガス40%、石炭33%、石油9%で、化石燃料が82%を占めていた。同庁が18年に公表した30年の電源構成見通しでは、液化天然ガス27%、石炭26%、石油3%で化石燃料の比率は56%だった。

 だが日本政府は今年7月、「CO2排出量が多い非効率な石炭火力発電所114基のうち、100基程度を段階的に休廃止する」という方針を発表した。ただし効率が高い石炭火力発電所については引き続き使用し、新設も認める方針だ。

 電力の輸出入が日常化している欧州とは異なり、日本は政治的な理由で、電力を外国から輸入するのが難しい。海を越えた電力の輸出入は技術的には可能だ。しかし現在の東アジアの政治情勢を見れば、日本がロシアや韓国、中国などから電力を輸入するのは困難だろう。日本は、石油や石炭など天然資源の輸入依存度も非常に高い。このため日本政府は、中長期的に原子力、化石燃料、再生可能エネルギーからなる電源構成の維持を目指しているように見える。

 現時点において、リフキン氏が提言するエネルギー政策を最も積極的に実行しているのは、欧州だ。その理由は市民の関心が強く、各国政府が経済の脱炭素化への明確な意志を持っているからである。もちろんエネルギー政策は安全保障と直結するので、各国が異なるエネルギー政策を採用することは理解できる。しかし気候変動は、グローバルな問題だ。我が国でも集中豪雨などの水害による犠牲者、経済損害が徐々に増える中、欧州各国の政府や企業の決断をひとごととして無視することは許されないのではないだろうか 。

リフキン氏との1問1答

熊谷:巨額の予算を投じて、新型コロナ危機による打撃と気候変動がもたらす影響の緩和という2つを同時に達成しようとするEUの狙いは成功するでしょうか。

リフキン:私は欧州が進み始めた方向性は正しいと思う。欧州諸国は地球温暖化問題を真剣にとらえている。気候変動問題に関する彼らの考え方は、日本や米国よりも先進的だ。欧州は今後、気候変動とコロナに対する耐性(レジリエンス)を高めるために何兆ユーロもの投資を実施する。この投資によって、その2倍の見返りを得ることができるだろう。

ジェレミー・リフキン氏<br>文明評論家。経済動向財団代表。1945年生まれ。過去3代の欧州委員会委員長、メルケル独首相をはじめ、世界各国の首脳、政府高官、企業のアドバイザーを務める。1995年より米ペンシルベニア大学ウォートンスクールの経営幹部教育プログラムの上級講師。「グローバル・グリーン・ニューディール」「限界費用ゼロ社会」「エイジ・オブ・アクセス」「水素エコノミー」など多数の著書が世界的ベストセラーとなっている。(写真:TIRコンサルティンググループ)
ジェレミー・リフキン氏
文明評論家。経済動向財団代表。1945年生まれ。過去3代の欧州委員会委員長、メルケル独首相をはじめ、世界各国の首脳、政府高官、企業のアドバイザーを務める。1995年より米ペンシルベニア大学ウォートンスクールの経営幹部教育プログラムの上級講師。「グローバル・グリーン・ニューディール」「限界費用ゼロ社会」「エイジ・オブ・アクセス」「水素エコノミー」など多数の著書が世界的ベストセラーとなっている。(写真:TIRコンサルティンググループ)

 私は20年前から欧州委員会に水素エネルギーの実用化を提言してきたが、なかなか実現しなかった。だが今回のグリーン・リカバリーでようやく水素プロジェクトが軌道に乗る。

 重要なことは、再生可能エネルギーによる電力だけを使って水素を作ることだ。再生可能エネルギーによるグリーン水素は、化石燃料を使った電力からの水素(グレー水素)に比べて製造コストが高く、経済性が低い。現在欧州や日本で使われている水素には、化石燃料から作られている物が多い。グレー水素を使うのでは、本当のエネルギー転換にはならない。

 したがって、欧州各国の政府は、ドイツが太陽光や風力発電に助成金を出してその競争力を強化したように、水素に対しても同様の助成をすべきだ。現在では太陽光や風力による電力は、助成金が不要になるほど発電コストが下がっている。政府が本当にやる気になれば、2020年代の末には水素エネルギーの経済性を確保できるはずだ。

 私は中国の政府機関にも助言している。中国は、2060年までに温暖化ガスの排出量を正味ゼロにするという目標を打ち出している。中国も2060年までに正味ゼロにするのでは遅すぎる。2040年の正味ゼロを目指すべきだ。人類の努力は、まだ十分ではない。CO2削減努力をもっと強めるべきだ。

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